松田凌が語る、芝居の考え方を変えたミュージカル『薄桜鬼』の存在【動画あり】

漫画やアニメ、ゲームを原作とする"2.5次元ミュージカル"。中でも時代劇の草分け的存在となったのが、人気ゲーム原作で、歌あり、ダンスあり、殺陣(たて)ありの「ミュージカル『薄桜鬼』」だ。その第1作「斎藤 一 篇」で主役の斎藤一役に抜てきされたのは、当時(2012年)まだ俳優デビューして1年強だった21歳の松田凌。彼はこの舞台で俳優としての一歩を踏み出した。

今から6年前のことになりますが、大役にどのように挑み、どのような稽古を積んだのでしょうか?

「実は当時のことは断片的にしか覚えていないんです。斎藤一役に選んでいただいてから斎藤一として生き、『薄桜鬼』の世界に没入していたので、松田凌としての時間はほとんど覚えていないほど必死でした。初舞台、初座長、しかもそうそうたるキャストの中で、僕は何もできませんでした。演出家の毛利(亘宏)さんからも主演としてのダメ出しではなく、芝居の作り方、役者の稽古の仕方などを一から教えてもらったんです。毛利さんにはミュージカル『薄桜鬼』後も何作か演出をつけてもらっています。最初に僕の芝居を観てくれた方で、僕の原点になっている方だと思います」

人気作品の舞台化ということで、意識されたことはありましたか?

「『薄桜鬼』の人気はすでにとても高かったので、僕らのプレッシャーも相当でした。僕らが原作への愛と尊敬の念を持っていないとファンの皆さんに扉さえ開いてもらえないと思ったので、僕ら1人1人が原作の斎藤一、沖田総司、土方歳三となりました。それができた上で初めて剣が振れて、踊れて、芝居につながる。少しでもズレると作品の世界が崩れてしまうので、声から立ち姿まで全て研究しました。僕の場合は斎藤一役の声優・鳥海浩輔さんの声、抑揚、アニメでの斎藤一の立ち居振る舞い、流す目の角度、手の所作、そういうもの全てです」

2.5次元ミュージカルの場合、よりエンターテインメント性の高い殺陣が要求されたのではないかと思います。例えば通常の殺陣はすり足ですが、「薄桜鬼」の場合は独特のステップを踏んでいますよね。

「そうなんです。殺陣はそれぞれのキャラクターのカラーを表現したものになっているんです。斎藤一の場合は居合が武器のキャラクターなので腰を低く落とし、なるべく手数は少なく、重さがありつつも華麗さを出す、職人のような殺陣をやっていました。対して廣瀬大介くん演じる沖田総司の殺陣は、華麗に舞うようなステップが特徴です。彼はダンスをやっていたので、そういった部分で分かりやすく沖田の殺陣を作るなど、自ずとそれぞれのキャラクターを表現した殺陣が作り上げられていきました。殺陣師の方は作品によって変わりましたが、皆さん、キャラクターを踏まえた上で作っていってくださいました」

芝居だけでなく、アクションスキルも培うことのできる舞台だったと思いますが、6年たって松田さん自身が変わった点、変わらなかった点はどこだと思いますか?

「変わらない点は気持ちです。僕はある目標を持って、この世界に入ってきました。それが何かは、かなった時に言うため口にせず秘めているんですけど、そこに到達するための気持ちは誰よりも強いつもりです。今はその夢にだいぶ近づいてきていると感じますが、最後の一歩が遠くて。でも見えない舞台ではなくなってきました」

それは演劇でのお話ですか?

「そうです。僕は演劇が好きでこの世界に飛び込み、上京して、今も演劇が大好きです。しかし役者って欲張りなもので、映画やドラマを経験してしまうと、そちらも楽しくて(笑)。だから、どの分野も経験しながら、演劇の目標地点に到達したいなと思っています」

では、変わった点は?

「今の自分はこれまでの自分と違う、もう一つの幹を作り始めている時期なのかもしれないです。かつての僕は自分のことしか考えていなかったと思うんですが、最近、自分のことを考えるためには、自分以外の人のことを考えることが大切だと気づいたんです。芝居も1人でする自己満足的なものでは意味がなく、共演者の方々と重なり合わないと真心を伝えることはできません。それは日常生活でも同じで、振り返るとずっと応援してくださっている方、マネージャーさん、スタッフさん、地元の友達がいる。25歳を過ぎて、その重さや責任を感じます」

「あとは、いろんなことをちゃんと考えて意思を持って生きていかないと、と思うようになりました。過去の自分は言動も行動も怖いもの知らずでしたから(笑)。それから、ずっと芝居が変わることで自分が変わると思っていたんですが、自分が変わることで芝居が変わることもあると思うので、自分自身も変えていきたいです。この"気づき"を持つことができた30歳手前の現地点はターニングポイントになっている気がします。役者としてではなくて、人として変わことが意識できるようになれば、もう少しいい役者になれるかなって」

その"気づき"を与えてくれたのは、やはり「薄桜鬼」でしょうか?

「ミュージカル『薄桜鬼』の存在は、間違いなく大きいです。終わりって始まりでもあると思うのですが、ミュージカル『薄桜鬼』が始まった時、僕はゼロの状態でした。でも、そこでいろいろな経験を積み、それが終わったことで、大切なことに気づくことができて、今こうして次の一歩を踏み出すことができているんだと思います」

文=及川静 撮影=中川容邦

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放送情報

ミュージカル『薄桜鬼』斎藤 一 篇

放送日時:2018年5月12日(土)02:00~


ミュージカル『薄桜鬼』沖田総司 篇

放送日時:2018年5月6日(日)01:00~

チャンネル:時代劇専門チャンネル

※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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