浅田真央、集大成は思い出のラフマニノフ

長年、フィギュアスケート界をけん引してきた浅田真央。彼女の現役引退公演となるアイスショー『THE ICE(ザ・アイス)』が2017年7月29~31日(大阪)と8月4日~6日(名古屋)で開催された。浅田が引退発表後のプログラムとして選んだ曲はロシアの作曲家セルゲイ・ラフマニノフの『エレジー』。ラフマニノフは、浅田真央が出場した過去2回のオリンピックでフリースケーティングの際に使用された曲の作曲者である。

トリプルアクセル2回、驚異のステップで魅了した「鐘」

2010年2月に行われたバンクーバーオリンピック。初のオリンピックシーズンに浅田がフリースケーティングで選んだ曲は、ラフマニノフが19歳のときに書いたと言われる『前奏曲嬰ハ短調Op.3-2 鐘』である。原曲はピアノ曲だが、彼女が選んだのは管弦楽版。しかしあまりにも重厚な曲、さらにトリプルアクセルを2回入れ、演技の3分半越えてから怒涛のステップが入るという難度の高いプログラムだったため、シーズン前半は思うような結果につながらなかった。「彼女の雰囲気に合っているのか」「別の曲に変えた方がいいのでは」など、心配する声も上がっていた。

だが彼女はこのチャレンジングなプログラムに真正面から取り組んでいった。引退発表後のテレビ番組『引退特別番組 浅田真央26歳の決断~今夜伝えたいこと~』のインタビューで自身の演技を見た浅田は、「このときが一番強い気持ちだった気がする」「鬼みたいだった気がする。自分が」と振り返っている。

彼女の努力が実り、バンクーバーオリンピックではトリプルアクセル2回を成功させ、銀メダルに輝く。そして翌月に行われた世界選手権では生命力にあふれた19歳ならではの演技を見せ、優勝という結果につながった。

日本中が泣いた伝説のフリー『ピアノ協奏曲第2番』

2014年のソチオリンピックで選んだのは、『ピアノ協奏曲第2番』。バンクーバー後、佐藤信夫コーチに師事し、ジャンプを一から作り直して、スケーティングに磨きをかけた。前年12月のグランプリファイナルでは優勝。万全の体制で2度目のオリンピックに臨んだ。しかし本番、ショートプログラムではトリプルアクセルで転倒、さらにコンビネーションジャンプが入らないという失敗をし、まさかの16位。

日本中が祈るような気持ちでフリーの演技を見守った。流れるようなピアノが始まると、その音色に乗せて浅田はトリプルアクセルの軌道に向かう。大きく左足を踏み込み、身体を振り上げ宙を舞う。右足が氷をしっかりとらえて着氷する。その後は次々にジャンプを成功させていく。中盤、柔らかな笑顔を見せるスローパートもあり、勢いあふれた4年前とは違う円熟した表現力で観客をひきこむ。そして最後のジャンプとなるトリプルループが見事に着氷すると、浅田は「よし!」と右手を引き寄せ、クライマックスへ。叩きつける鍵盤の音に合わせ、細やかかつダイナミックにステップを踏む。スパイラルでリンクを回り、すべての力を込めて天を仰ぐフィニッシュポーズ。浅田は涙をこぼしながらも、観客の鳴りやまない拍手に笑顔で応えた。

浅田真央のスケート人生を描いたアイスショー

2017年4月10日、浅田真央は現役生活からの引退を発表した。そして日本中に感動を届け続けてきた彼女が、フィギュアスケート選手として一つの区切りとしたのが『ザ・アイス』である。浅田のブログでも「スケート人生とザ・アイス11年間の想いも込めて滑ります」と書かれていたが、新プログラム『エレジー』では、さらに研ぎ澄まされた表現力を発揮。また出演者が彼女の歴代のプログラム曲を滑る「浅田真央メドレー」というプログラムも。『鐘』は小塚崇彦が、『ピアノ協奏曲第2番』髙橋大輔が演技を見せて、まさに浅田真央づくしのアイスショーだった。彼女の彩り豊かな美しいスケートは、私たちの記憶にずっと残り続けるだろう。

Writer:桂泉晴名

※この記事はヨムミル!ONLINEの転載になります。

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放送情報

【多】LOTTE presents THE ICE 2017 完全版

放送日時:2017年9月16日(土)19:30~

チャンネル:日テレプラス ドラマ・アニメ・音楽ライブ

※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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