7月14日に前半戦を終え、一時中断していたプロ野球。ペナントレース後半戦が8月13日から再開する。今季もJ SPORTSで主催試合が生中継されている中日ドラゴンズは現在4位につけており、リーグ戦再開後はAクラス浮上、そして逆転優勝を目指す。その中日で今季最も勝ち星を挙げているのが右腕エースへと成長してきた柳裕也だ。
■最愛の父を交通事故で亡くし、わずか12歳ながら告別式で挨拶
宮崎県都城市出身の柳は、小学3年で野球を始めた。運送業を営んでいた父の博美さんは野球経験はなかったが、木材を自ら加工してバットを作り、キャッチボールの相手をするなど、入門書を片手に野球の基礎を柳に教えたという。そんな柳が小学6年になった2006年、悲劇が突然起こる。父の博美さんが交通事故に遭い急逝したのだ。母がショックで打ちひしがれる中、「男の子はどんなにつらくても泣いちゃだめだ。お母さんが心配するだろ」という父の教えを守った柳は涙を見せず、喪主の母に代わって告別式で挨拶。「お父さん、僕はプロ野球選手になってお母さんと妹を守ります。だから安心してください」と、わずか12歳の子供が遺影に向かって語り、弔問客の涙を誘った。
中学3年時に日本代表に選ばれ、少年野球全米選手権で優勝するなど活躍した柳は、多くの高校野球強豪校から勧誘を受けた。そして「プロになってお金を稼ぎ、家族を楽にさせたいと」との思いで、プロ野球選手を多数輩出していた神奈川の横浜高校へ進学。母・妹・祖母を宮崎に残し、単身で横浜へ渡った。
■明治大学のエースとして大活躍し、ドラフト1位で中日へ入団
横浜高校ではエースの座をつかみ、2年の春・夏、3年の春と、甲子園に3回出場。優勝こそ達成できなかったが、全国の舞台で好投を見せた。卒業時、家庭の事情を考慮し、働きながらプロを目指す社会人野球入りも考えた柳だが、母に後押しされて明治大学へ進学。順調に成長し、主将を務めた4年時には春季が6勝1敗、防御率0.87、秋季は5勝0敗、防御率1.64でチームを春秋リーグ連覇に導き、自らも3季連続ベストナインを受賞した。また、夏の日米大学野球選手権では2試合に先発し無失点の好投を見せ、MVPに輝きチームの大会連覇に貢献。これらの大活躍が評価され、2016年のドラフト会議で中日と横浜DeNAから1位で指名され、抽選の結果、中日へ入団することが決まった。
■父の日にプロ初勝利を挙げ、今季は奪三振トップと絶好調
即戦力として期待されたルーキーイヤーの2017年6月18日、埼玉西武戦に先発した柳は、7回3失点と好投しプロ初勝利をマーク。奇しくもその日は6月の第3日曜日、"父の日"だった。「ウイニングボールは父の仏壇に置きます」と語り、プロのスタートを切った柳だったが、その後は勝ち星を挙げられず、翌2018年も2勝5敗と、ドラフト1位としては不本意な成績に終わった。迎えた3年目の2019年、柳は飛躍を遂げる。セ・パ交流戦では3勝0敗、防御率1.17と、いずれもトップの数字を残し、日本生命賞を受賞。シーズン全体でチーム最多の11勝を記録した。昨年は右腹直筋を痛めて戦列を離れ、6勝止まりに終わったが、今季は開幕から安定した投球を披露し、前半戦7月までに7勝5敗、防御率2.42、そして奪三振112は2位以下に大差をつけリーグトップを走っている。
■回転数の多いストレートと多彩な変化球は切れ味&制球力抜群
160km/h前後の速球が珍しくない現代野球で、柳のストレートは平均約142km/hと、速くないどころか遅い部類に入る。それでも数多く三振を取れるのは球種の多彩さが要因だ。真上から投げ下ろすストレートはボールの回転数が多く、ホップするかのような軌道で、打者の体感はスピードガンの数字を大きく上回る。緩急をつけたカーブ、スライダー、カットボールは切れ味、制球力とも抜群で、今季はチェンジアップ系シンカーの精度も上がった。
また、投手交代のためマウンドに来たコーチを拒否するかのような姿を何度か見せるなど、打者へ向かっていく闘争心も特筆もの。中日には星野仙一、川上憲伸など、明治大でエース&主将だった偉大な先輩たちがおり、それを受け継ぐ柳にも闘志あふれる"明治スピリット"が流れている。上位チームとのゲーム差は開いているが、投打が噛み合い、柳が前半戦以上の働きで勝ち星と奪三振を積み重ねていけば、中日のクライマックスシリーズ進出、そして逆転優勝も夢ではないはずだ。
文=田口裕(エンターバンク)
放送情報
J SPORTS STADIUM2021 中日 vs 広島
放送日時:2021年8月17日(火)17:40~
チャンネル:J SPORTS 2
※放送スケジュールは変更になる場合があります
J SPORTSでは中日ドラゴンズ主催試合を生中継
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