【前編】アンチ巨人が最も熱心なジャイアンツファン!?桑田真澄に育てられたスポーツ報知の名物記者・加藤弘士が勧める、プロ野球を3倍楽しむ方法
- スポーツ
- 2022.07.20
スポーツ報知の名物記者としてプロアマの野球を長らく取材し、現在はデジタル編集デスクを務める加藤弘士。野村克也監督のシダックス時代に番記者として密着し、今年上梓した『砂まみれの名将 野村克也の1140日』(新潮社)も好評だ。ジャイアンツをどこよりも詳しく報じるスポーツ報知の加藤が語る、巨人やファームの楽しみ方とは――。
■ずっとプロ野球ファンでいたい
うちのオヤジは茨城県の水戸出身で、お茶の間ではいつもナイターがつけてあるというよくある家でした。一緒にテレビを見ていたら、江川卓、西本聖、定岡正二が投げて、原辰徳、中畑清、篠塚和典が打つ。年に1回、水戸にオープン戦が来るのをすごく楽しみにしていましたね。
でも、やっぱり後楽園球場に観に行きたくて、初めて連れていってもらったのが1983年5月3日の巨人対阪神のデイゲーム。当時、僕は小学3年生でした。
おそらく席は三塁側のスタンドで、階段を上っていくとバーっと広がる後楽園球場の鮮やかな光景に胸が本当にワクワクしたというか、心が躍るというか。ちょうど阪神の藤田平さんが2000安打を達成した日でしたけど、忘れられないのは中畑への応援がすごかったこと。「かっ飛ばせ、キヨシ。燃えろ!」って声を張り上げた後、みんながメガホンで「燃えろ!」って言うのを聞いて、「プロ野球、すごいな」って思いましたね。
僕は取材では記者証で野球場に入れるようになった今でも、チケットを買って観戦仲間と一緒に見に行くんですよ。ずっとファンでいようと思っています。東京ドームでもジャイアンツ球場でも、階段を上っていくと球場がバーっと見えるワクワクは不変で、いつもドキドキしながら見ていますね。
■アンチが存在するのは世界に2チームだけ
小学校の頃に野球を見始めて、成長とともに巨人以外のチームにもすごく魅力を感じるようになりました。なかでも1985年、阪神の日本一は鮮烈でしたね。そこから阪神ファンになって、アンチ巨人になりました。
ただ、アンチ巨人ってすごく巨人に詳しいんですよ。結局、巨人戦ばかり見ているので。新庄剛志が出てきたらワクワクするけど、アンチ巨人だからいつも巨人の情報を求めて、やけにチームのことに詳しい。突き詰めていくと、アンチが一番巨人ファンなんじゃないかなというのが体験上、僕の持論なんですね。
地球上の野球チームでアンチが存在するのは、ニューヨーク・ヤンキースと東京ジャイアンツだけなんです。気づいたら180度転換して、今はものすごいジャイアンツファンです。
そうなった一番大きなきっかけは、やっぱり報知新聞社に入ったことですね。僕は記者になりたかったけれど、20代の頃は広告の営業をずっとやっていたんです。25歳から3年間は雑誌の広告担当で、全部で5kgくらいあるのではというくらい「月刊ジャイアンツ」をたくさん持って都内に営業に行きました。もうダンベルみたいに重くてね。
それを読んでいると、東京ドームで活躍している選手を応援している人たちが当然ほとんどですけど、「ファームの情報を充実させてくれ」という声もたくさんあったんです。二軍の情報を知りたがっている読者はこんなにいるんだなと知って、ジャイアンツ球場にすごく強い関心を抱くようになりました。
■週7日、取材でジャイアンツ球場へ
2003年から記者職になり、初めて巨人担当になった2006年には週7日間ジャイアンツ球場に通いました。桑田真澄さんの担当で、ちょうど巨人最後の年だったんです。一軍からお呼びがかからないなか、桑田さんは二軍で毎日必死に頑張って練習していました。
桑田さんは朝早くから練習するので、こっちも始発電車でジャイアンツ球場に通いました。都心から稲城方面に行くのは、人の流れと逆行するなと思いましたね。あの頃は必死でした。そういう意味では記者も育てられる場所だと思います。
桑田さんはジャイアンツ球場に強い思い入れを持っていて、ジャイアンツでの最後の登板は東京ドームではなくジャイアンツ球場だったんですよ。お別れ登板に集まったのは3495人。開場以来の最高記録だと思います。チケットを買えなかった人たちは球場の外の丘から見ていました。
桑田さんと言えばトミー・ジョン手術(内側側副靭帯再建術)をした後に走っていた「桑田ロード」が有名ですけど、ジャイアンツ球場は"道場"のような場所だったと思うんですね。その一方、燦々と降り注ぐ太陽の中で選手たちを見守ってくれている"母なる地"というか、ジャイアンツ球場にはそういう優しさを感じるようなところもあるんですよね。
桑田さんは最後まで自分を研ぎ澄ますことに手を抜くことなく、二軍でも腐らずに取り組んでいたのがすごく印象に残っています。
■育成から駆け上がった松原聖弥の猛アピール
ファームを見ることで、プロ野球の世界の厳しさを知るようなところもありました。未来をつかもうと必死に頑張っている選手がいて、それを追いかける人たちもいる。
当然、スポットライトが当たって照らされた一軍にはプロ野球の華があるけど、ファームを知るとプロ野球が2倍も3倍も面白くなると思います。
プロ野球選手でいられる時間って、すごく短いじゃないですか。そこには競争しかありません。
バッターなら、イースタンリーグの試合では相手ピッチャーと勝負しなければいけないと同時に、チームメイトとも戦わなければならない。勝負の中に身を委ねて、なんとかサクセスをつかもうとしている必死さが一番の魅力だと思うんですよね。
僕は2017年、球団公式のSNSで巨人の3軍中継のMCを担当しました。定岡さんや吉村禎章さん、角盈男さんなどレジェンドと一緒にお喋りしながら試合を見ていたら、気になる選手がいました。前の年に育成ドラフト5位で入ってきた松原聖弥です。
松原は出塁すると、信じられないくらいリードを大きく取るんですよ。当時三軍の監督は川相昌弘さんで、「とにかく俺の足を見てくれ」って強烈な自己主張をするかのように走る。1試合4盗塁をするくらいで、「俺の足を見てくれ」という姿勢が全身から表れているんです。
バッティングは荒っぽいけど、信じられないようなボールを打ち返してヒットにする。肩も強くて、面白い選手だなって思いました。
松原は仙台育英高校時代、チームが甲子園に出たけどベンチメンバーに入れず、スタンドで応援していました。進学した明星大学はプロ野球選手を続々と輩出するような学校ではないけれど、必死に頑張って育成契約でジャイアンツに入団しました。三軍からアピールして、去年から一軍で活躍しています。こういう過程を見られるのがファーム観戦の面白さであり、喜びですね。
今でも暇があると、ジャイアンツ球場に足を運んでいます。一軍とは違った面白さがすごくあるんですよね。「俺の売りはなんだ?足だ」っていうような選手のアピールが伝わってくる。そういうギラギラした若い人の頑張りを見ていると、元気をもらえるのがファームならではの魅力ですね。
インタビュー/構成=中島大輔 企画=This、スカパー!
【インタビュー後編はこちら】 ※後編は7月21日11時00分に公開予定
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