福岡で育ち、大学卒業後はタレント活動をしながらホークスの取材を続ける上杉あずさ。ファームの選手が熱心に努力する姿に触発され、自身もマウンドに立ちたいと「#めざせ100キロプロジェクト」を開始。見事達成し、現在は女子硬式野球チーム「九州ハニーズ」の一員としてもプレーしている。そんな上杉が語る、ホークスとファームの魅力とは――。
■高校時代の松井裕樹選手に心を奪われて...
私が生まれ育った福岡では、ダイエーホークス(現ソフトバンク)が優勝したら町中でセールが行われ、地元のチームを応援する雰囲気が自然とありました。
小学生の頃に弟が少年野球を始めるタイミングで私自身も野球をやりたいと思ったけれど、当時は女子野球人口も少なかったし、運動神経が良かったわけでもないので親に止められました。代わりに弟の試合に行って、父兄の人たちと井戸端会議をしながら野球を見ていましたね。
中学ではソフトボール部に入り、高校生になって高校野球に興味を持つようになりました。将来の夢は「長島三奈さんになること」で、野球を伝える仕事をするには大学に行かなければと長崎大学に進学しました。アナウンサーになるためにはスコアをつけられるようにならなければと思い、野球をやっていた友達を誘ってビッグNスタジアム(長崎県営野球場)によく行きました。
そのときに見ていた選手の1人が、今は楽天の育成枠にいる釜元豪選手。長崎県立西陵高校から2011年育成ドラフト1位でホークスに入団しました。スコアブックを見直したら、「私、高校時代にこの選手のスコアをつけていたじゃん!」って勝手にテンションが上がりましたね(笑)
翌年には桐光学園時代の松井裕樹選手(現楽天)が甲子園の今治西戦で22奪三振を記録したのをテレビで見て、「どうしても、近くで見たい!」と初めて新幹線に乗って甲子園まで行きました。
ダイエーがきっかけで野球が好きになり、高校生や大学生がプロ野球選手になって夢をかなえていく姿に心を震わせるようになっていきました。アナウンサーにはなれなかったけれど、どうしても野球を伝える仕事をしたいとタレントになり、ホークスや野球の魅力をテレビやラジオ、WEBサイトなどで伝えています。
■黒瀬健太選手への特別な思い
私が野球を伝える上でファームに特化したくなるのは、例えば甲子園で見ていた選手はプロ入り後、すぐに一軍でプレーすることはなかなかないからだと思います。ファームの球場に行ったら、「おお、根尾(昂)だ!」と思うようなミーハーな心は今もありつつ、高校野球からプロ野球のユニフォームに着替えて頑張っている選手たちの姿がたまらないですね。
ファームにいるのは順風満帆な選手ばかりではありません。取材できる立場になってからは選手たちと言葉を交わすので、さりげなく奮い立たせることができたらいいなと恐れ多くも思っています。
特にそう感じた一人が、今年7月に4年ぶりに支配下登録に復帰した黒瀬健太選手。2015年ドラフト5位でホークスに入団し、一軍の出場機会がないまま2018年オフに戦力外に。育成契約に切り替わったけれど、ファームでアピールしてもなかなか支配下になれない日々が続きました。
状況的に、モチベーションを保つのは簡単ではなかったと思います。一般企業で働いている人でも、例えば上司や周りとうまく行かないとそうなるじゃないですか。
黒瀬選手は高校通算97本塁打のパンチ力が魅力で、美しいホームランを打つんです。リチャードも思うように台頭できていないですし、和製大砲を育てるのは難しいですよね。そういう現状をどう打開していくのか、「頑張れ!」って思いながら見てきました。
黒瀬選手のお母さんは時々ファームに来られて、すごく息子のことが大好きで素敵な方です。「お母さんのためにも頑張りなよ!」って感情移入して、だからこそ夢を叶える姿を見たいと思ってきました。
私がホークスの取材を始めたのは、ちょうど黒瀬選手たちが入団したタイミングです。そうした思い入れもあるので支配下登録されたときは本当に嬉しくて、もっともっと活躍を期待している選手です。
■ギラギラした"若鷹"に触発され、自身も挑戦開始
選手たちを取材する立場になってからも、「いつかマウンドで投げてみたい」という小学生以来の夢を私は持ち続けていました。それを実現に向けて行動に移し始めたのは、一人の"若鷹"への取材がきっかけです。
それは2013年育成3位でホークスに入団した曽根海成選手(現広島)で、私が取材を始めた頃はファームでアピールしていました。
ある日、雨で中止になって「今日は休めるな」と他の選手が言っているのを聞いて、曽根選手は「俺は1試合でもアピールできないと生き残れない。あんなヤツらに負けたくない」とギラギラしながら練習していたんです。試合後も泥だらけになって居残りをしていました。
その姿を見て、「私は何をやっているんだろう。せっかく野球に関わる仕事をしているんだから、もっと熱いことをしたい!」という欲に駆られてしまったんです。毎日野球ばかり見ていたこともあって、自分も実際にプレーしたい、特にピッチャーをやってみたいと思いました。
周りの人に聞いたら、「100km/hはまあまあ難しい思うよ」と言われたので、始球式で達成することを目標にしました。でも、どうやったら球団が始球式をやらせてくれるのかわからなくて、まずはSNSで「#めざせ100キロプロジェクト」を始めました。2016年秋のことです。
最初は練習風景の動画や、「今日は何球投げました」とアップしました。するとファンの人が「見たよ。始球式、できたらいいね」と言ってくれて、巡り巡って選手やコーチがワンポイントアドバイスをくれるようになって。ファームのタマスタ(タマホームスタジアム筑後)のスタッフにも伝わり、「100キロチャレンジみたいな始球式をやろうよ」って声をかけてくれたんです。
実際に決まったのは2017年シーズンが始まる直前で、3月19日の阪神二軍戦で始球式のマウンドに立たせてもらいました。左右を見たら両ベンチにプロ野球選手がいるのに、私がマウンドに立っているのは不思議でしたね(笑)。結局93km/hで達成できず、「またチャンスを用意するから、引き続き頑張ってね」と言ってもらいました。
でも、その年の秋にもらったチャンスでも達成できず、シーズンオフには取材後に帰り道の公園で壁当てをしたり、「私は何を目指しているんだ?」っていうくらい頑張りました。
そして2018年4月25日、福岡ヤフオク!ドーム(当時)での西武戦で一軍の試合前に始球式で投げさせてもらえることになりました。ファームの選手には「ごめんね。私は結果も出していないのに」と言った一方、いい機会だからやろうと。結果はちょうど100km/h。これが99km/hで未達成だったらと思うと...冷や汗が出てきましたね(苦笑)
■選手とファンの「架け橋」になりたい
2年越しで目標を達成した後、今度はチームでプレーしたいと草野球チームをつくりました。そして縁あって今年から、福岡にできた九州ハニーズでプレーさせてもらっています。女子野球のレジェンド、川端友紀さんが中心になって立ち上がったチームで、今年の全日本女子硬式クラブ野球選手権では準優勝に輝きました。
女子でもトップレベルだと120〜130km/hを投げるピッチャーがいて、打ってはフェンス直撃であと少しでスタンドインというバッターもいます。女子でもこんなにパワーやスピードがあるんだって、選手ながら一人の野球ファンのように感じました。
私は子どもの頃からダイエーが好きで、高校野球や大学野球が好きになりましたが、それと同じように、女子野球は面白いなと改めて感じられました。レベルの違いはあるかもしれないけれど、それぞれの魅力があります。
そうやって感じられるようになったきっかけの一つが、ホークスのファームを取材してきたことです。頑張っている選手たちから、今もたくさんの刺激をもらっています。
選手の気持ちを想像すると、上手くいかずに悩んでいるときは誰かに話を聞いて欲しいときもあると思います。私がそういう相手になり、応援できるようなコラムやレポートを届けたいですね。純粋にファンの人は選手の頑張っている姿を見たら刺激になると思うので、取材を通じて架け橋になりたい。そう思って、ファームの選手たちが頑張っているタマホームスタジアム筑後に通っています。
インタビュー/構成=中島大輔 企画=This、スカパー!
【インタビュー後編はこちら】 ※後編は10月1日10時00分に公開予定
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