プロデビューからわずか3年で竜王戦七番勝負の大舞台に進出した伊藤匠七段。藤井聡太竜王・名人とは同学年であり、ライバルとしての存在になることが期待される。
伊藤は2020年度前期の三段リーグを1位で突破し、18歳になる直前でのプロ入り。藤井とは同学年であるが、誕生日は伊藤の方が3ヵ月ほど遅いため、当時の最年少棋士となった。
デビュー直後は連敗スタートだったが、その後は高い勝率をあげ、2021年度は藤井を抑えて勝率1位を獲得。藤井はデビューから毎年勝率1位を取っているが、この年度は唯一2位に甘んじた。この年には新人王戦でも優勝、順位戦C級2組も1期抜けするなど、一気に若手のトップクラスへと躍り出た。
2022年度も順調に活躍を続けて、藤井とも2度公式戦で相まみえた(結果はどちらも藤井の勝ち)。棋王戦ではベスト4に入るなど、タイトル挑戦争いにも絡み始める。
2023年度は破竹の勢いで勝ちまくるが、竜王戦で大爆発。5組決勝で服部慎一郎六段との俊英対決を制し、2年連続で決勝トーナメントに進出。6組優勝の出口若武六段、4組優勝の大石直嗣七段に勝ち、1組の壁に挑む。
3回戦で対戦した1組5位の広瀬章人八段は竜王獲得経験もあるトップ棋士だが、伊藤は後手番ながら序盤から圧倒して快勝。続く4回戦は1組4位の丸山忠久九段。角換わりの研究勝負から最後は切れ味を見せて制勝。準決勝は1組優勝の稲葉陽八段。前期の竜王戦で敗れた相手だ。難解な勝負が続いていたが、終盤に稲葉の緩手をとがめて一気に抜け出し、前年のリベンジを果たして挑戦者決定三番勝負に進出。
挑戦者決定三番勝負の相手は1組3位の永瀬拓矢王座。難敵だが、先手の第1局は角換わりから強く踏み込んで快勝。続く第2局、伊藤は角換わりから右玉に構える。苦しい時間も長かったが、最後は大熱戦を制し、タイトルホルダーを相手に連勝で挑戦を決めた。
竜王戦が現在の制度になって、決勝トーナメント最下層の5組(6組)からの挑戦は初の快挙。藤井でさえも毎年ランキング戦を制して決勝トーナメントに進出していたが、挑戦して竜王を奪取したのは2組になってからだった。若手が序列1位の竜王戦を勝ち上がることを「竜王戦ドリーム」と呼ぶが、挑戦権獲得まで進んだ伊藤に相応しい言葉だ。
同学年でもある藤井がすでに全冠制覇を成し遂げようとしているので感覚がマヒしてしまうが、伊藤も竜王戦七番勝負開幕時はギリギリ20歳。これは歴代でもトップ10に入る記録だ。
幼少時には小学生大会でも対戦した同い年の2人がタイトル戦の舞台でも対戦する。かつての羽生善治九段と森内俊之九段の関係を思わせるライバル関係だ。森内は羽生と激闘を繰り広げ、永世名人を先んじて獲得するなど存在感も見せた。伊藤も藤井に対抗する存在になれるか、ライバル対決の1ページ目になることが期待される七番勝負になるだろう。次回はシリーズの行方を展望をしていきたい。
文=渡部壮大
放送情報
第31期 銀河戦 本戦Bブロック 10回戦 佐々木勇気八段 vs 伊藤 匠六段
放送日時:9月21日(木)7:00~
放送チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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