10歳の最年少棋士、仲邑菫(なかむらすみれ)初段が4月に公式戦デビューを迎えた。国民的期待を背負う仲邑初段は、記者会見などでは口数か少なく、はにかんだ笑顔が印象的だ。「菫さんは恥ずかしがり屋さんで、よく笑う女の子です。道場の中でよく走り回っていました」と、同じ韓国の道場で勉強していた佐田篤史三段はいう 。仲邑初段自身も、得意な科目は体育と言っており、普段は活発な女の子の姿がうかがえる。
■トップ棋士も認める100年に一度の天才
そんなかわいらしい女の子が、ひとたび盤の前に座ると表情は一変し、勝負師の顔つきに。着手した後、相手の顔をちらりと見る目には厳しさが宿っている。仲邑初段は張栩(ちょうう)名人との試験碁の後、井山裕太五冠、崔精(チェ・ジョン/韓国)九段、曹薫玄(チョ・フンヒョン/韓国)九段、黒嘉嘉(こくかか/台湾)七段との記念対局で、その実力は明らかになった。相手は全員、世界トップクラスの棋士。勝つことはできなかったが、内容に対するプロの評価は高かった。「井山君との碁を見たけど100年に一度の天才だね。(当時)9歳でこれだけ打てるのは信じられない」と、元名人の依田紀基九段はツイッターで絶賛した。試験碁を打った張名人は「衝撃でした。碁の内容からも、ものすごく才能を感じられた」と、実力に太鼓判を押す。井山五冠は、数年前から仲邑初段の実力がずば抜けていることを見抜き、期待していたという。
■負けず嫌いの性格が功を奏した優勝
仲邑初段が10歳にして将来を期待されるほどのレベルまで、どのように強くなったのか。3歳で碁を覚えると、間もなく終局まで打てるようになった。ターニングポイントは4歳の時に出た未就学児が参加できる「渡辺和代キッズカップ」だ。仲邑初段は18級で出場し、ベスト16に入ることができず、帰りの新幹線で泣いて悔しがったという。「来年は1回も負けたくない」と、仲邑初段と母親の幸さんは「毎日、碁の勉強をしよう」と決めた。それから保育園に行く前に2時間、帰ってから2時間、1日も欠かさず碁に向き合ったのだ。5歳で出場したキッズカップは3位で1回負けた。そこで1日4時間だった碁の勉強を7時間に延ばし、6歳でついに優勝を果たした。「キッズカップで優勝するという目標が、菫ちゃんに火をつけたのは間違いありません」と原幸子四段(日本棋院常務理事/キッズカップ実行委員)。仲邑初段の負けず嫌いの性格も功を奏した。
■毎日7時間以上の努力という才能
それから今日まで、毎日7時間以上の時間を碁に費やしている。小学生で1日7時間以上、碁に向き合うのはプロを目指す子供にとっては珍しくないが、小学生の時に同じくらいやっていたという一力遼八段も「菫さんより僕の方がずっと弱かった」と、その才能を認めている。ただ、これだけの努力を持続できるのも、仲邑初段の大きな才能の1つだ。父親の信也九段は厳しく、時に仲邑初段は涙することもあったという。子供であれば親に怒られ続けたら嫌になってしまいそうなものだが、それでも努力を続けられるくらい碁の魅力にはまったのだ。これから仲邑初段がどこまで大きく羽ばたくのか、その活躍が楽しみで仕方ない。
文=内藤由起子
放送情報
BadukTV「クラウンヘテ杯韓国子ども名人戦」32強戦
放送日時:2019年4月27日(土)13:00~
※ほか、4月27日(土)、30日(火)~5月2日(木)、4日(土)、6日(月)は「仲邑 菫プラチナウィーク」と題して仲邑菫初段を特集
チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
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