映画監督ハル・ハートリーとは何者か?

ハル・ハートリー
ハル・ハートリー

4月から洋画専門チャンネルのザ・シネマが3ヶ月連続でハル・ハートリーの映画を特集放送する。先陣を切るのは1990年の長編第2作『トラスト・ミー』だ。このハートリー特集が世間にとってどれだけのニュースバリューがあるかはともかく、どれだけ長く、そして深く待ち望まれていた作品だったことか!

ハル・ハートリーという語呂のいい名前(本名)を持つ映画監督は、1980年代が終わり1990年代に移り変わる境目に現れた。1980年代はヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュらのインディペンデント系作品がミニシアター文化を盛り上げた時代で、業界が若い新人を青田買いする中でデビューのチャンスをつかんだ。

無名だったハートリー自身、学生時代の仲間と作った初長編『アンビリーバブル・トゥルース』が完成すれば、ジャームッシュみたいに配給会社がつくんじゃないかと漠然と考えていたそうで、実際、悪名高いハーヴェイ・ワインスタインのミラマックス社によって全米公開されている。

当時のミラマックスはまだ新興の会社だったが、同年にスティーヴン・ソダーバーグのデビュー作『セックスと嘘とビデオテープ』も公開している。つまりハートリーとソダーバーグは同期であり、作家性を貫くインディペンデントなスタンスなど共通点も多いのだが、一番の違いはハートリーがあくまでも個人商店のように自分の手が届く範囲での映画作りを望んだことだろう。

『トラスト・ミー』に話を戻す。主演はエイドリアン・シェリーとマーティン・ドノヴァン。ハートリー作品では、まるで劇団のように同じ役者が繰り返し登場するが、中でもハートリーの独特の世界観を象徴するのがシェリーとドノヴァンだったと言っていい。

シェリーが演じたのは、予期しない妊娠をして高校を退学になった16歳の少女マリア。激昂して罵詈雑言を浴びせる父親を平手打ちしたら、なんと父親が心臓発作を起こして死んでしまう。父殺しという十字架を背負ったマリアは、世の中に馴染めない電気修理工の青年マシューと出会い、身を寄せ合うように絆を強めていくのだが、果たして2人に未来は開けるのか?

『トラスト・ミー』

(C)POSSIBLE FILMS, LLC

ハートリー映画の特徴は、登場人物が振り付けのように画面中を動き回り、一定のリズムに合わせて半ば独り言のようなセリフを放つことにある。会話が成立しているのかいないのか、なんとも宙ぶらりんな感覚にとらわれるのだが、最後には思わぬエモーションが立ち上る。一筋の風が吹き抜けるようなその瞬間に、観客はかけがえのない映画に出会ったのだと気づく。ハートリーとはそんな監督なのである。

ところが、だ。1999年公開の『ヘンリー・フール』を最後にハートリーの新作は日本に入って来なくなる。インディーズシーンの変質と日本のミニシアター文化の終焉を象徴するかのように、ハートリーは10数年、日本の観客の前から姿を消してしまったのだ。しかも公開作の多くもVHSからDVDへの転換に乗り遅れ、ほとんど観ることすら叶わない状況が続いていたのだ。

2014年にようやくリバイバル特集が組まれ、『アンビリーバブル・トゥルース』、『シンプルメン』(5月にザ・シネマで放送予定)、イザベル・ユペールが自ら名乗りを上げて主演した『愛、アマチュア』、そして2011年の中編『はなしかわって』が劇場にかかり、国内版DVDも発売された。

『シンプルメン』

(C)POSSIBLE FILMS, LLC

そして昨年にはハートリー自身がクラウドファンディングを呼びかけて『ヘンリー・フール』と日本未公開だった続編2本からなる「ヘンリー・フール三部作」の日本語字幕化を実現させるなど、ようやく日本で多くの作品を観られる状況が戻ってきた。

しかし1990年代に熱狂的に愛された『トラスト・ミー』だけは、ひっそりとVHSテープが貸し出されている程度で、ファンの枯渇感は高まるばかりだったのである。まさに満を持しての『トラスト・ミー』放送は、オールドファンにとっては切なくも幸せだった"あの時代"を思い出す引き金になるだろうし、また、ハートリーを知らない人にとって絶好の入口になってくれることは間違いない。 

文=村山章

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放送情報

トラスト・ミー

放送日時:2018年4月17日(火)21:00~

チャンネル:ザ・シネマ

※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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