今年度は藤井聡太の初タイトル獲得、渡辺明名人の誕生などさまざまなトピックがあったが、将棋ファンにとって大きなニュースとなったのが山崎隆之八段悲願のA級昇級だ。これまで昇級に一歩及ばない年が続く中、ついにA級入りを決めた。A級までに要した23期は史上最長だ。
山崎は1998年に四段昇段。17歳でのプロ入りはエリートコースだ。順位戦はC級2組でこそ時間がかかったものの、6期目の第62期に昇級。C級1組、B級2組はどちらも2期目ですんなり抜け、A級入りは時間の問題かと思われた。
最初のチャンスはB級1組3期目の第69期順位戦で、昇級争いをするも最後に3連敗と失速し脱落。第71期は8勝4敗の好成績を収めるも上位が走り届かず。第73期は昇級争いをリードするが後半戦で失速し、8勝4敗ながら順位差で昇級ならず。第75期は最終戦で勝てば昇級だったが、敗れて8勝4敗ながらまたも順位差に泣く。第76、77期も前半戦は昇級争いをするが、やはり後半戦で失速と、ことごとくチャンスを逃してきた。そして前期の第78期は3勝9敗と不振に陥るも、からくも順位差で残留。
そして迎えた今期の第79期順位戦B級1組で復活し、序盤から星を伸ばす。順位戦以外の棋戦でも高い勝率と好調だった。7回戦で初黒星を喫するが、そこから勝ち続け、10回戦で昇級争いをしていた永瀬拓矢王座との直接対決を制す。残り2戦を残し、9勝1敗の首位となっていた。
ラス前の時点では残り2戦のうち山崎がどちらかを勝つか、競争相手の永瀬拓矢王座、郷田真隆九段のどちらかが1敗すれば昇級が決まる非常に有利な状況だった(ただし最終戦は山崎と郷田の直接対決)。
だがこの日は永瀬が勝ち、山崎は久保利明九段に敗れる。そして郷田も優勢と、昇級は最終戦にもつれ込みそうな戦況だった。充実著しい永瀬は最終戦も勝つ可能性が高いことを思うと、大勝負の経験が豊富な郷田との直接対決はまたも昇級を逃す流れを予感させた。しかし松尾歩八段の粘りが実り、郷田は深夜の逆転負け。この時点で山崎の2位以内が確定し、悲願のA級入りが決まった。
山崎の棋風を一言で表すなら自由奔放。相掛かりを得意とし、金銀バラバラの悪形をものともせず、持ち前の腕力と終盤の逆転術で白星を重ねてきた。以前、羽生善治九段が山崎との感想戦で独特の感覚を聞き、非常に楽しそうな様子だったことが印象的だ。なお、力戦の雄、糸谷哲郎八段は山崎にとって同郷、同門の後輩で数多く練習対局を重ねてきた仲である。
タイトル挑戦こそ1回だが、棋戦優勝は8回と、文句なしの一流棋士。特に早指しでの強さは際立っており、棋戦優勝のうち2回は全棋士参加棋戦のNHK杯だ。それだけの実力があったからこそ、A級に上がれないのが不思議と思われていたのである。
来年6月に開幕予定の第80期A級順位戦は10人による総当たり戦。佐藤康光九段、糸谷八段、そして山崎と超個性派が3人も並んでおり、どんな将棋が飛び出すか分からない。
文=渡部壮大
放送情報
第27期 銀河戦 本戦Cブロック 最終戦 高見泰地叡王 vs 山崎隆之八段 ※「高」は正しくは「はしご高」
放送日時:2021年3月17日(水)13:00~
チャンネル:囲碁・将棋チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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