芸人＆日本語学者のサンキュータツオが「けいおん！」シリーズを語る！

'09年の放送時、ブームを巻き起こした「けいおん！」。京都アニメーション制作のアニメだ。

「アニメ業界を20年に渡ってけん引してきた京アニが描く背景は、とにかく素晴らしいんです。舞台となる高校の校舎の床の擦れまでリアルに描かれていて、感動しましたね。また、登場人物たちの足元だけの描写があるのですが、歩き方やドタバタする仕草で、誰の足か分かります。リアルに実在するかのような描き方がものすごく上手いんです」

物語は主人公が高校の軽音部に入部したところから始まり、仲間たちとの日常が描かれる。

「『けいおん！』は部活モノにしては異例で、楽器を猛練習するシーンがほとんどありません(笑)。もちろん演奏しますが、それ以上に放課後に部室に集まって、ケーキを食べて紅茶を飲んで、わいわい過ごしている日常がたくさん描かれているんです。思い起こせば、学生時代に仲間と過ごす何でもない時間ってキラキラしていたじゃないですか。この作品を見ると、その時間がどれだけ貴重だったかをひしひしと感じます」

そう言われると、なんだかセンチメンタルな気分に......。

「この作品には、例えば『勉強しなさい』と口うるさく言うような、いわゆる"大人"が出てこないんですね。部活の顧問の先生は出てきますが、一緒に部室でキャッキャするタイプの"大きな子供"のようなキャラクターです。そんな環境の中で、彼女たちは自主的にやりたいことを見つけていきます。例えば合宿したりだとか、ロンドンへ卒業旅行して現地のライブハウスで演奏したりだとか。成長途中の少女が、自分たちの世界を獲得していくんです」

主人公らは軽音部に入部したことをきっかけに、合宿や旅行に挑む。しかし大人になるにつれて、いつしか"挑戦"は面倒に感じられてしまいがちだ。

「囲碁、将棋、卓球、盆栽、骨董など、好きなものは何歳から始めてもいいと思うんです。この作品では、"軽音"という趣味を通じて自分の世界がどんどん広がっていきます。もしかしたら働いている方よりも、定年した方のほうが、これに近い体験をしているかもしれません。近所の公民館でいつものメンバーとお茶を飲んだり、趣味について語り合ったり。その時間こそがかけがえのない財産なんだなあと思わせてくれます」

サンキュータツオ●'76年生まれ。漫才コンビ「米粒写経」として活動しながら、大学では言語学などの非常勤講師も務める。アニメなどサブカルチャーにも造詣が深い。

取材・文＝横前さやか

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