乃木坂46・樋口日奈の芝居の枠を超えた「女優としてのポテンシャル」

アイドル界のトップランナーである乃木坂46は多彩な才能を持つ個性豊かなメンバーで構成されており、アイドル活動以外でも個々にドラマや映画、舞台、雑誌、バラエティなどさまざまな場所で活躍している。代表的なメンバーとしては白石麻衣や齋藤飛鳥などが挙げられるだろう。

そんな中で、女優として素晴らしい才能を備えたメンバーが樋口日奈だ。樋口は2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格し、白石や齋藤らと共に乃木坂46を成長させてきた1人で、個人としてもドラマや舞台、声優として海外映画の日本語吹き替え版、女性ファッション誌の専属モデルなど、その活動の場は多岐にわたる。

タレントとして多くの顔を持つ彼女だが将来の夢は女優で、目標とする人物として薬師丸ひろ子や綾瀬はるかを挙げている。そんな彼女の女優としてのポテンシャルが垣間見えるのが舞台「+GOLD FISH」(2019年)だ。7月18日(土)に衛星劇場で放送される。

同作品は、演出家・西田大輔が手掛ける本格派ミステリー作品「ONLY SILVER FISH」シリーズの第2弾作品で、過去を振り返ることができるといわれる魚「オンリーシルバーフィッシュ」を巡るもう1つのストーリー。

役を演じながら自身のアイデンティティも表現する樋口日奈

(C)MMJ

本当の名前を知ることで過去を振り返ることができるといわれる魚の名前を知る権利を求めて、片田舎にある古い洋館に集まった12人の男女。彼らが洋館の主の言葉に従って権利を与えられる1人を選ぶための投票を行う中、隣町から逃れた殺人犯が洋館に紛れている可能性が浮上する、という内容。

シンシアという一生懸命だがどこか自信のなさそうな女性を演じる樋口の演技で注目すべきは、他人を演じながらも自分自身のキャラクターを殺していないところだ。俳優というものは、"作品の中で自分とは違う人物を生きる"ことが至上命題で、演じる役によって色が変わらないといけない。それを追求する「役者道」がある一方、演じながらも本人のアイデンティティも醸す役者もいる。連続ドラマで主役を務める者やかつての映画スターなどがそれだ。この例の後では風呂敷を広げているように聞こえるかもしれないが、樋口も確実にこの中に入るといえるだろう。彼らは観る者を演じている役に感情移入させるのではなく、物語の中で生きる役の生き様を見せることで観る者を"観賞者のまま"楽しませてくれる。

樋口といえば、柔らかい雰囲気の持ち主で少し天然なところのあるキャラクターなのだが、劇中のシンシアもそのキャラクターを踏襲しており、観ていて「当て書きなのでは?」と思ってしまうほど。自信なさげでおどおどしているさまも、その柔らかな雰囲気によって嫌味を感じさせないものになっており、つい応援したくなる"か弱さ"がある。加えて、自分に強く当たってくる登場人物に対して毒づく場面や殺人犯をあぶり出すために打つひと芝居の中でカタコトになってしまうコミカルなシーンでも、持ち前の愛らしさが加味されており、芝居を超えた部分で楽しませてくれる効果を生んでいる。

この芝居の枠を超えた効果を生み出す才能は、樋口自身が有する"女優としてのポテンシャル"に他ならない。作品の性質上、内容の詳細までは触れられないがシンシアは作品の中でも重要なポジションで、そんな役どころを演じ切る演技力ももちろん素晴らしい。だが、彼女が演じることで生み出される効果や、観る者を"観賞者のまま"作品世界に引き付ける力を感じてみてほしい。

文=原田健

この記事の全ての画像を見る

放送情報

映画『ONLY SILVER FISH』
放送日時:2020年7月12日(日)12:00~

舞台「ONLY SILVER FISH」
放送日時:2020年7月18日(土)20:30~

舞台「+GOLD FISH」
放送日時:2020年7月19日(日)0:30~

チャンネル:衛星劇場

※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくはこちら

キャンペーンバナー

関連記事

記事の画像

記事に関するワード

関連人物