2023年5月に「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」が劇場公開され、映画史に残る壮大なサーガの完結がいよいよ現実味を帯びてきた「ワイルド・スピード」(以下、ワイスピ)。ザ・シネマでは年明け早々の1月に、1作目「ワイルド・スピード」(2001年)から9作目「ワイルド・スピード/ジェットブレイク」(2020年)までを集中放送。さらに1月28日(日)には、4作目以降のレギュラー吹き替え声優が1作目に新録で吹き替えをした「(吹)ワイルド・スピード【ザ・シネマ新録版】【4Kレストア版】」も放送する。
シリーズにハマり、変遷を見てきた映画ライター・村山章さんに、改めてワイスピならではの魅力を語ってもらった。
■「5作目が一番面白い」というまれな映画シリーズ
1作目「ワイルド・スピード」の公開からおよそ20年。紆余(うよ)曲折を経たシリーズは誰も予想しない成長を見せてきた。
「1作目の時点ではまだ"一流の映画"という感じはしなくて、正直に言うと半笑いで見ていたんです。2作目の『―X2』(2003年)では主演のヴィン・ディーゼルがいなくなって、3作目の『―X3 TOKYO DRIFT』(2006年)になるともう1人の主演俳優、ポール・ウォーカーまでいなくなったので、『大人の事情ってこういうことだよな...』と、シリーズの尻すぼみを肌で感じました(笑)。ところが、4作目の『―MAX』(2009年)でメインキャストが呼び戻されて人気がV字回復するんです。このシリーズとはもう付き合う必要はないと思っていたんですけど、続く『―MEGA MAX』(2011年)のマスコミ試写を何げなく見に行ったら面白過ぎて、本当に仰天しました。5作目が一番面白い、そんな映画シリーズ他にありました?」
後の作品も含めて村山さんがベストに挙げる「―MEGA MAX」。何にそこまで引き付けられたのか。
「『―MEGA MAX』は、製作陣の反省と決意の表明だと思っています。その都度の事情で主人公を変えたり、いろいろなキャラクターをないがしろにしてしまったり、今までみっともないところを見せてすいませんでした! これからはファンのことを大切にします! と宣言しているように感じられて。映画界的にはまだたいして有名ではなかったキャストや記憶もおぼろげな登場人物も含めて、『俺たちワイスピオールスターが再集結しましたよ!』みたいなドヤ顔で仕切り直した『―MEGA MAX』のノリがほほ笑ましくて大好きなんです」
■失敗とされる過去にも向き合い肯定する、ワイスピの素晴らしさ
「―MEGA MAX」以降もワイスピは作品を重ねるごとにスケールアップ。そして"後付け"によって過去作にも影響を与えていく。
「ワイスピはリアルタイムでその変遷を体験できるまれな成功例だと思うんです。それと同時に、決して評判は芳しくなかった過去作の評価も上方修正されました。例えば、ハン(サン・カン)というキャラクターは『―X3 TOKYO DRIFT』で初登場して死んでしまうのですが、続く『―MAX』『―MEGA MAX』にも何食わぬ顔で登場している。つまり『―X3 TOKYO DRIFT』の方が時系列的に後だと分かってくるのですが、さらに6作目の『―EURO MISSION』(2013年)を見ると、『ああ、ハンも東京でツラかったんだな...』と気付くんです。『―X3 TOKYO DRIFT』でのハンは主人公の高校生を舎弟にするストリートレーサーという、結構イタい大人だったんですが、『―EURO MISSION』を経てから見直すとハンのシーンは目頭が熱くならずにいられない。『―X3 TOKYO DRIFT』もむしろ傑作だったんじゃないか? みたいな魔法にかけられるんです(笑)。これは壮大な後付けですよね。シリーズがどんどん大きくなって、ストーリーや設定がグダグダになっていることは認めますが、ちゃんと過去と向き合って肯定していく...その姿勢が素晴らしいんです」
一見すると荒唐無稽にしか思えないアクションシーンにも、ワイスピでしか味わえない感動があると村山さんは言う。
「7作目の『―SKY MISSION』(2015年)には、語り草になっている、主人公ドミニク(ヴィン・ディーゼル)の無鉄砲にも程がある空中ダイブのシーンがあります。むちゃすぎて笑ってしまうんですが、アクションのカタルシスとキャラクターの感情の頂点がガッと一致するから猛烈に盛り上がるんですよ。まさに奇跡みたいな瞬間だと思うんですが、ワイスピにはそういったシーンが何度もある。例えば『―ジェットブレイク』ではついに車で宇宙に行くんですけど、普通に考えて行けるわけがないじゃないですか(笑)。でも、シリーズでコメディ要員みたいな扱いになっていたローマン(タイリース・ギブソン)とテズ(リュダクリス)が地球を救うために命を懸けていることに感動して、ムチャクチャなシーンなのに感動するんです」
■生き物のように変化し、見どころが多角的になった
ポール・ウォーカーの悲劇も含め、ワイスピは変化することを広く許容してきたシリーズなのかもしれない。
「『―SKY MISSION』の撮影期間中に、不慮の交通事故でポール・ウォーカーが亡くなったことを受けて、作品のラストで描かれた"さよなら"は映画史上最も美しい別れのシーンの一つだと思います。映画が人の死をこんなに美しく悼めるのか、と。ポール・ウォーカーにはワイスピファンとしても申し訳ない気持ちがあったんです。ワイスピに強烈な登場人物が増え続けた結果、正統派の二枚目であるポール・ウォーカー演じるブライアンの影がだんだん薄くなって、こちらの気持ちとしてもちょっとないがしろにしていたんですよね。ところが、『―SKY MISSION』はそれまで以上に見せ場が多くてすごくカッコいい、それでいてとぼけた味みたいなものがにじみ出た本当に"いいブライアン"だったんです」
「ワイスピって本当に不思議で、どこか生き物みたいなシリーズなんです。誰かの明確なビジョンでここまで来たというより、みんなが寄ってたかってワイスピの面白さとは何かを考えて変化し続けた結果、見どころが多角的に増えているように思います。もちろん後付けによってストーリーや設定に無理を重ねてきたので、そろそろ崩壊するだろうと思っているんですけど、その崩壊が早いか、シリーズが完結するのが早いかというレースも始まっていて、それも今後のシリーズの見どころだと思います」
むらやま・あきら●映像編集を経て、映画ライターとしてテレビやラジオ、雑誌、ウェブ等で活躍。配信系映画・ドラマのレビューサイト「ShortCuts」代表。ロケ地を訪れるほど「ワイルド・スピード」シリーズ好き。
取材・文=山崎ヒロト
放送情報【スカパー!】
ワイルド・スピード 【4Kレストア版】
放送日時:2024年1月1日(月)21:00~
ワイルド・スピードX2 【4Kレストア版】
放送日時:2024年1月2日(火)21:00~
ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT 【4Kレストア版】
放送日時:2024年1月3日(水)21:00~
ワイルド・スピード MAX
放送日時:2024年1月4日(木)21:00~
ワイルド・スピード MEGA MAX
放送日時:2024年1月5日(金)21:00~
ワイルド・スピード EURO MISSION
放送日時:2024年1月6日(土)21:00~
ワイルド・スピード SKY MISSION
放送日時:2024年1月7日(日)21:00~
ワイルド・スピード ICE BREAK
放送日時:2024年1月8日(月)21:00~
ワイルド・スピード/ジェットブレイク
放送日時:2024年1月20日(土)21:00~
(吹)ワイルド・スピード【ザ・シネマ新録版】【4Kレストア版】
放送日時:2024年1月28日(日)21:00~
放送チャンネル:ザ・シネマ
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