英国の作家イアン・フレミングが、スパイ小説「カジノ・ロワイヤル」に英国諜報員ジェームズ・ボンドを登場させたのは1953年。フレミングはその後、11冊の長編と2冊の短編小説を発表しているが、その小説を映画化したシリーズ第1弾『007/ドクター・ノオ』が公開されたのは1962年。それから半世紀以上の時が過ぎ、2019年にはシリーズ第25弾となる新作も公開予定。ジェームズ・ボンドは現在もなお、世界中で愛され続けている。
これまでジェームズ・ボンドを演じた俳優は6人。中でも、初代ジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリーは、現在でも映画ファンの圧倒的な支持を集めている。元ボディビルダーという経歴からもたらされたフェロモンたっぷりな肉体美、英国紳士的なユーモアセンス、野性味とスマートさが同居したジェームズ・ボンドのパブリックイメージはコネリーがもたらしたものであるといっても過言ではない。もちろんボンドガールと呼ばれるヒロイン、観客を魅了するガジェットの数々、一流アーティストによる主題歌など、ボンド映画の基本的なフォーマットは、初代となるコネリー時代に完成されたものだ。
だが当初、原作者のフレミングは「都会的で洗練されたボンドを演じるには、労働者階級出身のコネリーは野暮った過ぎる」と、コネリーの配役に反対していたという。だがコネリーは、『007/ドクター・ノオ』のテレンス・ヤング監督の手ほどきによりスーツの着こなし、立ち振る舞いなど、洗練した雰囲気を習得。そして、そんなコネリーのボンドを見たフレミングは考えをあらため、コネリー=ボンドを絶賛。その後に発表した小説はコネリーを意識した形になったという。
それから時は過ぎ2006年。権利問題がクリアとなり、フレミングの小説第1弾となる「カジノ・ロワイヤル」が満を持して再映画化。『007/カジノ・ロワイヤル』というタイトルで公開されたこの映画で、6代目ジェームズ・ボンドに就任したのはダニエル・クレイグだった。シリーズを一新する本作を映画化するにあたり、プロダクション側が打ち出したキーワードは「ジェームズ・ボンドの原点回帰」だった。東西冷戦が終わり、"現代のジェームズ・ボンド"とは何なのか、という命題をもとに組み上げた物語となった。だが、前任者のピアース・ブロスナンが洗練された雰囲気をかもし出していたこともあり、一部ファンからは「金髪のクレイグはボンドじゃない」「ボンドを演じるには背が低いのではないか」などのバッシングを受けていたことも事実。それだけボンドを愛するファンの期待は大きいということなのだろう。
しかし、そんな不安の声も映画が公開されると一掃されることとなる。クレイグ版ボンドは血気盛んでタフ、肉弾戦も辞さない武闘派に変身。荒唐無稽(こうとうむけい)な要素は影を潜め、シリアスで骨太、かつ哀愁を帯びたトーンが全編を覆い、ボンドが007となるまでの物語を紡ぎ出した。この"再起動"は見事に成功を収め、世界的な大ヒットを記録した。そして、前作から1時間後から物語が始まるという異例のスタイルが話題となった『007/慰めの報酬』、そしてクレイグ版ボンドの最高傑作の呼び名も高い『007/スカイフォール』、クレイグ版ボンドの集大成ともいうべき『007/スペクター』を発表。そして紆余曲折あったものの、現在制作が進められているシリーズ最新作『ボンド25(仮題)』にもダニエル・クレイグの続投が決定。新たなステージへと上り詰めたボンド神話が、これからどこへ向かうのか興味は尽きない。
文=壬生智裕
放送情報
私の愛した007 シリーズ完全放送
放送日時:2018年9月29日(土)より毎週(土)、(日)21:00~
※1作品ずつ連日放送
チャンネル:スターチャンネル2
放送日時:2018年10月7日(日)より毎週(日)12:00頃~
※2作品ずつ一挙放送(全21作品+番外編)
チャンネル:スターチャンネル3
<その他>
007/スペクター
放送日時:2018年9月21日(金)21:00~
チャンネル:スターチャンネル1
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