「愛の不時着」(2019年)で見せたソン・イェジンとの息の合った共演ぶりが、年明けに再び注目を集めたヒョンビン。二人の初共演と言えば2018年の映画『ザ・ネゴシエーション』(2018年)だが、それからわずか1年あまりで「愛の不時着」での再共演が実現。女性ファンのみならず男性視聴者まで夢中にさせるカップルとなったことは周知の通りだが、きっと俳優と女優、共にカメラの前ですべてを曝け出した両者にしか分からない相性や信頼関係があるのだろう。
絶妙なコンビネーションと言えば、ヒョンビンが代表作「シークレット・ガーデン」(2010年)直後の人気絶頂期、海兵隊への入隊前最後の作品となった映画『愛してる、愛してない』(2011年)で見せたイム・スジョンとの共演でも、忘れがたい濃密な空気を漂わせていた。
直木賞作家・井上荒野の短編「帰れない猫」がベースとなる『愛してる、愛してない』は、別れを決めた夫婦の一日を描く静かな大人のラブロマンス。2011年のベルリン国際映画祭コンペティション部門に韓国映画で唯一出品され、国際的な評価も高い1作だ。
5年間を共に過ごした夫婦のリアルな空気感がポイントとなる本作で、ヒョンビンの"妻"役となるのが、「ごめん、愛してる」(2004年)で日本でも注目を集めたスジョン。『サイボーグでも大丈夫』(2006年)や『ハピネス』(2007年)など数々の映画に出演し、海外でも評価を受ける先輩女優であり、その彼女に「また共演したい」と言わしめたほど、同作での二人が醸し出す空気感は、生々しく濃密だ。
妻が家を出ていく日、夫は無言で妻の荷造りを手伝い、思い出のレストランに予約を入れ、コーヒーを淹れる。優しすぎる夫と、それに不満を感じる妻。これから別れる二人に対して、こんな言い回しは変かも知れないが、夫を演じたヒョンビンと妻を演じたスジョンの、間合いの取り方、視線、所作はぴったりとハマり、お互いの心の奥が見えないもどかしさが驚くほどリアルなのだ。
多くのセリフがある訳ではない。妻がタバコに火をつける、無言で夫の胸を打つ、夫が物憂げに窓の外の雨を眺める、伏し目がちの夫が髪をかき上げる――そういった動きの一つ一つから、5年という月日を積み重ねてきた彼らの心情を想像させられる。
その日二人に起きた大きな出来事と言えば、ずぶ濡れの仔猫が家に迷い込んできたこと。それをきっかけに、猫に引っ掻かれた夫を妻が手当てしたり、レストランへは行かずに2人でキッチンに立ち料理をすることになったりと、今までの二人の生活を思わせるシーンが続く。大きなすれ違いは無かったはずなのに、感情をさらけ出すことに不器用で別れを選択しなければならなかった二人の生活を見ていると、自然と心が締め付けられてしまう...。
雨音や食器の重なる音、重い窓を閉める音などの静かな生活音をBGMに、ヒョンビンとスジョンだから描くことのできたひとつの夫婦のリアルな別れ。映画の余白にまで考えを巡らせざるを得ない、二人のリアルすぎる空気感にただただ圧倒させられるはずだ。
文=津金美雪
放送情報
愛してる、愛してない
放送日時:2021年2月4日(木)20:00~
チャンネル:スカチャン1(KNTV801)、KNTV
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