華やかな映画スターがひしめき、絢爛豪華なエンタメ作が続々と作られる映画大国インド。アクションもラブロマンスもコメディもドンと来い!喜怒哀楽のあらゆる感情をフルスイングで描き出す圧倒的なパワーに、観る者はもうひれ伏すしかない!そんなインド映画の魅力を体現しているのが、日本でも大ヒットした『バーフバリ』二部作や『SAAHO/サーホー』(2019年)の主演で知られるプラバース。10月には42歳の誕生日を迎え、ムービープラスで「ハマる!インド映画SP~プラバース誕生祭~」なる特集も放送される大スターである。
■プラバースの人気を確固たるものにしたファンタジー超大作『バーフバリ』
プラバースの魅力を知るには、まずは『バーフバリ 伝説誕生』(2015年)、『バーフバリ 王の凱旋』(2017年)を観ていただきたい。このインド版『ロード・オブ・ザ・リング』か『ゲーム・オブ・スローンズ』と呼ぶべきファンタジー超大作でプラバースが演じたのは、シヴドゥという孤児の若者と、悲劇の運命をたどった偉大な王バーフバリ。主演スターが一人二役をこなすのはインド映画では定番のパターンだが、シヴドゥとバーフバリは実は親子なので(ネタバレかもしれませんが一目瞭然なのでご容赦を!)、見た目が似ているのも当然という設定だ。
『バーフバリ 伝説誕生』は、まさに「伝説誕生」にふさわしいブッ飛んだ場面から始まる。森の中を、傷ついた老婆が、赤ん坊を抱えて逃げている。老婆は襲いかかる追手を返り討ちにするが、目の前の大河に落ちてしまう。老婆は「自分の命と引き換えにこの子を救いたまえ!」と神に祈り、最後の力を振り絞って、水の中で赤ん坊を持ち上げたまま絶命するのだ!これほどドラマティックな幕開けの映画に出会えることは滅多にない。
そして、生き残った赤ん坊の成長した姿がプラバース扮するシヴドゥ。たくましい若者になったシヴドゥは、心の内なる声に導かれるようにナイアガラやイグアス級の巨大な滝を体力だけで登り切り、滝の上にあるマヒシュマティ王国にたどり着く。そしてマヒシュマティこそが、かつて伝説の王バーフバリが治めた国。自分の出生の秘密を知ったシヴドゥは、父王の遺志を継ぐべく、悪辣な現在の王に戦いを挑むのだ。
■一瞬の「カッコよさ」を追求するため、贅沢な手間と時間を注ぎまくる!
前後篇合わせて約5時間30分という長丁場だが、ストーリー自体は「偉大な王子(バーフバリ)が偉大な王になるが裏切られる」と「実は王子だった男(シヴドゥ)が悪い王様に立ち向かう」の二本柱で、どちらも子どものおとぎ話レベルにシンプル。ではどうしてこれだけ時間が長くなるのか?その理由は、インド映画の語り口が、日本やハリウッドの映画と根本的に異なっていることにある。
インド映画には、とにかくタメとキメが多い。例えばプラバース演じるバーフバリ/シヴドゥがいかにカッコいいかを見せるために、彼の動き、なびく髪、不敵だが愛嬌ある表情をたっぷりと捉え、そして最高の決めポーズやキメ顔に持っていく。例えば、『バーフバリ 王の凱旋』冒頭の登場シーンで、バーフバリは暴走した象を止めて母親を救う。その象を止めるまでの一連の動きを、きらびやかな演出やスローモーションを駆使して、これでもかと見せまくるのだ。
しつこい、と言われればその通りだが、歌舞伎の見栄にも似た「これぞバーフバリ様の最高の瞬間」を押して押しまくるビジュアルが、観る者の思考を麻痺させるほどにカッコいい。その一瞬のカッコよさに贅沢な手間と時間が注がれた結果、映画でしか味わえないゴージャスな興奮が生まれるのである。
また、ミュージカル調のシーンもインド映画のお約束。これもインド映画が誇る贅沢極まりないサービスだ。最近は、ミュージカルシーンは減少傾向にあるのだが、ひとたびインド映画にハマった者にすれば、もっと歌って、もっと踊ってくれよと中毒症状のように求めたくなるもの。今でも「映画が娯楽の王様」という位置づけにあるインド映画の底力がもっとも如実に感じられるシーンだと言える。
さらに『バーフバリ』は、アクセルを踏み抜いてなお爆走するような怒濤のアクションも凄い。『~伝説誕生』の戦車仕様の馬車を使った大合戦シーンは『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』(2015年)を彷彿とさせるし、『~王の凱旋』のクライマックスの城奪還戦は口あんぐりのスケール感に思わず笑ってしまうほどだ。
そして重要なのは、これらのバカバカしいまでの壮大な大風呂敷を、普通の役者なら絶対に持て余すであろうということ。しかしプラバースを筆頭に、インド映画の名だたるスターたちはみんな、この過剰な映画表現を堂々と背負ってみせるだけの説得力と人間的魅力に満ちているのだ。逆に言えば、プラバースこそが、この「映画史上最も偉大な王様」を演じるにふさわしい正真正銘のスターなのである。
『SAAHO/サーホー』もまた、プラバースの魅力を最大限に活かすために作られたような快作だ。こちらは謎の犯罪王サーホーと、彼を追う警察、そして対立する犯罪組織の三つ巴のバトルを描いたアクション大作で、 二転三転する展開、複雑な人間関係、飛躍するストーリーなど、ちょっと情報や力技が多すぎて飲み込みづらい部分もある。しかし、これもまたインド映画のサービス精神ゆえ。一本の作品で様々な顔を見せ、超絶アクションを披露するプラバースに見惚れていたら、3時間超の上映時間が駆け抜けるように過ぎていくだろう。
日本のイケメン基準からすればあまりにも濃すぎるプラバースだが、すでに多くの人が「もっとバーフバリを!もっとプラバースを!」と虜になっている。インド映画はあまり観ていないという人も、ぜひ絢爛豪華なめくるめく世界を探求する入口にしていただきたい。
文=村山章
村山章●1971年生まれ。ライター。映像編集経て、雑誌、新聞、WEB等で映画関連の記事を執筆。ライター業の傍ら、ハル・ハートリー作品など海外のインディペンデント系作品の配給宣伝を手がけることも。しりあがり寿が主宰する「さるハゲロックフェスティバル」では、2009年開催の第一回より出演と運営を続けている。
放送情報
バーフバリ 伝説誕生
放送日時:2021年10月7日(木)23:15~、10月23日(土)10:30~
バーフバリ 王の凱旋
放送日時:2021年10月8日(木)23:45~、10月24日(日)10:30~
SAAHO/サーホー
放送日時:2021年10月25日(月)21:00~、10月30日(土)0:45~
チャンネル:ムービープラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら