最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」でフィナーレを迎えたダニエル・クレイグによる6代目ジェームズ・ボンド。歴史あるシリーズにどんな変化をもたらしたのか? 映画パーソナリティーの伊藤さとりさんに解説してもらった。
知る人ぞ知る俳優であるダニエル・クレイグが、約15年ボンドを演じてきた。彼がシリーズに残した功績は大きい。
「クレイグはアート系作品や洋画が好きな人たちには認知されていましたが、『カジノ・ロワイヤル』時点では今ほど人気がありませんでした。では、どうして『007』を通じてこんなに成功を収めたのか。それは女性ファンの存在が大きかったと思います。彼はボンドを演じながら、並行してメジャー作品にたくさん出演して女性ファンを巻き込み、裾野を広げていきました。また、クレイグ版は見やすいこともポイントで、『カジノ・ロワイヤル』はボンドが殺しのライセンス"00=ダブルオー"を手にしたばかりの初任務を描きますから、以前のシリーズを見ていなくても彼の成長を一緒に見届けることができるんです」
クレイグ版ボンドと歴代のボンドの違い、それはボンドがとても人間的であることだ。
「『カジノ・ロワイヤル』でびっくりしたのが、愛の物語だったことなんですよね。ボンドが初任務で大変な目に遭いながらも、ヴェスパーというひとりの女性と出会い、真剣に寄り添って、命を懸けて愛する。そこで裏切りや別れを経験して、精神的にもズタボロになる...つまり生身のボンドを見せた映画だったんですよ。孤高なだけではなく、そこに"弱さ"があるからすごく魅力的に見えてきて、だからこそボンドの成長が気になるし、内面が気になるんです」
「ここまでボンドの心に向き合った『007』は初めて」と伊藤さんが言うように、人間としてのボンドを描いたのは異例のことだった。
「続く『慰めの報酬』は、ボンドが内面を見つめ、自身の復讐を果たす物語でした。『スカイフォール』はボンドが過去と決別して未来に向かう物語。愛憎相半ばする上司Mとの別れ、過去にとらわれている敵と対峙します。さらに『スペクター』では彼がマドレーヌという女性と出会う、再生の物語に変わります。『ノー・タイム・トゥ・ダイ』はラストを飾るのにふさわしい、真実の愛を探る映画になっていました。つまり全5作品を通じて、女性を愛し、傷つき、人を信じられなくなり、再び愛に触れて、未来へと踏み出そうとしたときに人間性と愛の深さを試される...クレイグ版ボンドはそれがとても切なく、エモーショナルなんです」
いとう・さとり●ハリウッド作品から邦画まで、映画舞台挨拶のMCや記者会見の司会を担当。映画誌などでレビューを執筆する一方、日刊スポーツ映画大賞などの審査員も務める。
取材・文=山崎ヒロト(Heatin' System)
放送情報
007/カジノ・ロワイヤル(2006年)
放送日時:2021年12月16日(木)10:45~
007/慰めの報酬
放送日時:2021年12月16日(木)13:30~
007/スカイフォール[フルスクリーン版]
放送日時:2021年12月17日(金)10:45~
007/スペクター
放送日時:2021年12月17日(金)13:30~
チャンネル:ムービープラス
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