■新時代のヒーローにアップデートさせた6代目ダニエル・クレイグ
映画史上、シリーズ作品として最長を誇る「007」。作家イアン・フレミングが1953年に誕生させた、英国秘密情報部、MI6のエージェント、ジェームズ・ボンド。その映画は1962年に第1作目がイギリスで公開されたが、そこから2021年の現在まで人気がキープされるとは、誰が予想したことだろう。最新作でシリーズ25本目となる『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の大ヒットは、このボンドというキャラクターが、演じる俳優は変わったにもかかわらず、時代を超えて観客にいかに愛され、求められているかを証明した。
もちろんシリーズを通して「007」に夢中になったファンも多いが、一方で、21~25作目のダニエル・クレイグ版のジェームズ・ボンドに魅了された人もたくさんいて、その結果、最新作は熱狂的に迎えられたのである。ボンド役に抜擢された当初は、髪がブロンドで、身長も歴代のボンド俳優の中で最も低かったことから、シリーズファンからバッシングも受けたダニエル。荒波への船出だったわけだが、彼の1作目『007/カジノ・ロワイヤル(2006年)』が公開されるや、クールなイメージの中に濃密な人間くささを漂わせ、マッチョな肉体によるアクションのリアリティもあり、ジェームズ・ボンドを新時代のヒーローにアップデートすることに成功した。
そこから、ダニエルの最後の出演作となる25作目の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のラストまで、超エモーショナルな展開まで用意して、観る者を虜にしたのである。当初、イメージが違ったからこそ、ジェームズ・ボンドに現代的センスを纏わせ、他のアクション大作と遜色のない魅力を与えた意味で、ダニエル・クレイグの功績は予想以上に大きかった。
■時代を反映しつつ、さまざまな個性を発揮してきたボンドたち
改めてシリーズを振り返れば、1962年の第1作『007/ドクター・ノオ』(公開時のタイトルは『007は殺しの番号』)は、当時としても低予算で製作され、ボンド役のショーン・コネリーもほぼ無名だった。しかし冷酷でタフ、野性味にあふれ、最高レベルのテクニックを持ったボンド像、そして悪役やボンドガール、斬新なプロダクションデザインなど、その後60年近く続くシリーズの「原点」が刻印された。続く第2作『007/ロシアより愛をこめて』(1963年)は、前作のヒットもあって、ロケ地や秘密兵器などがボンドのミッションに合わせてスケールアップ。タイトルと同名の主題歌とともに、この第2作を、今でもシリーズの最高傑作として挙げるファンが多数。
さらにド派手になった第3作の『007/ゴールドフィンガー』(1964年)で、ショーン・コネリーのボンドは、完全なるスタイルを確立。その後のボンド俳優は、現在のダニエル・クレイグに至るまで、コネリーと比較されることになる。第6作の『女王陛下の007』(1969年)で2代目ボンド俳優となったジョージ・レーゼンビーは、モデル出身の甘いマスク。しかし演技経験もなく、スーツをびしっと決めたコネリーのムードとの違和感が先行し、残念ながら1作で降板。とはいえ、『女王陛下の007』は、最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でもオマージュが捧げられるなど、シリーズの魅力は満点だった。
再びショーン・コネリーが1作だけカムバックした後、3代目ボンドを任されたのが、ロジャー・ムーア。こちらはむしろ、ボンド像を一新するイメージで、1970~80年代の時流にマッチした。軽妙洒脱で、ユーモアもわかる英国のジェントルマン。作品の中のアクションも、時代に合わせ、いい意味での荒唐無稽さを増して、痛快な「007」へとシリーズを変貌させた。ムーアの作品は7本製作され、歴代ボンド俳優としては最多だった。
4代目のティモシー・ダルトンは、2作のみの出演だったが、実はイアン・フレミングの原作のイメージに最も近いという評価もある。先代ムーアとは違って、どこか苦悩を抱え、冷酷な部分も前面に出すボンド像が、ファンのマニア心をくすぐった。そして1995年の第17作『007/ゴールデンアイ』から、5代目ボンドとして4本に出演したのが、ピアース・ブロスナン。ショーンのクールさと、ロジャーの軽妙さをうまくブレンドし、徹底してダンディな雰囲気、女性キャラとの対等な関係などで、6代目のダニエルへ受け継がれるハードなアクションの基本も築いた。
こうして6人のボンド俳優が、各時代を反映しつつ、さまざまな個性を発揮してきたことで、シリーズファンを飽きさせなかったのが、「007」シリーズの長寿の要因のひとつ。理想のヒーロー像は時代とともに変化しつつも、そこに、アストン・マーティン、スーツ、ウォッカ・マティーニ、腕時計といった不変のアイテム、そしてケレン味たっぷりの悪役や、スタイリッシュでやや過剰な美術という、シリーズ独自の魅力が重なることで、「変わるもの」と「変わってほしくないもの」の最高のバランスを果たしているのが、「007」シリーズ。その事実を、最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は改めて教えてくれた。
文=斉藤博昭
斉藤博昭●1963年生まれ。映画誌、女性誌、情報誌、劇場パンフレット、映画サイトなど様々な媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。得意ジャンルはアクション、ミュージカル。最も影響を受けているのはイギリス作品。
放送情報
007/ドクター・ノオ
放送日時:2021年12月1日(水)11:30~
(吹)007/ドクター・ノオ【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月25日(土)9:00~
007/ロシアより愛をこめて
放送日時:2021年12月1日(水)13:30~
(吹)007/ロシアより愛をこめて【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月25日(土)10:45~
007/ゴールドフィンガー
放送日時:2021年12月2日(木)11:30~
(吹)007/ゴールドフィンガー【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月25日(土)13:00~
007/サンダーボール作戦
放送日時:2021年12月2日(木)13:30~
(吹)007/サンダーボール作戦【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月25日(土)15:00~
007は二度死ぬ
放送日時:2021年12月3日(金)13:30~
(吹)007は二度死ぬ【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月25日(土)16:45~
女王陛下の007
放送日時:2021年12月6日(月)11:00~
(吹)女王陛下の007【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月26日(日)9:00~
007/ダイヤモンドは永遠に
放送日時:2021年12月6日(月)13:30~
(吹)007/ダイヤモンドは永遠に【日本語吹替版】
放送日時:2021年12月26日(日)10:45~
007/死ぬのは奴らだ
放送日時:2021年12月7日(火)11:15~
(吹)007/死ぬのは奴らだ【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月27日(月)9:00~
007/黄金銃を持つ男
放送日時:2021年12月7日(火)13:30~
(吹)007/黄金銃を持つ男【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月27日(月)11:30~
007/私を愛したスパイ
放送日時:2021年12月8日(水)11:00~
(吹)007/私を愛したスパイ【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月27日(月)13:30~
007/ムーンレイカー
放送日時:2021年12月8日(水)13:30~
(吹)007/ムーンレイカー【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月27日(月)15:15~
007/ユア・アイズ・オンリー
放送日時:2021年12月9日(木)11:00~
(吹)007/ユア・アイズ・オンリー【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月28日(火)9:00~
007/オクトパシー
放送日時:2021年12月9日(木)13:30~
(吹)007/オクトパシー【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月28日(火)11:15~
007/美しき獲物たち
放送日時:2021年12月10日(金)13:30~
(吹)007/美しき獲物たち【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月28日(火)13:30~
007/リビング・デイライツ
放送日時:2021年12月13日(月)11:00~
(吹)007/リビング・デイライツ【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月29日(水)11:30~
007/消されたライセンス
放送日時:2021年12月13日(月)13:30~
(吹)007/消されたライセンス【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月29日(水)13:30~
007/ゴールデンアイ
放送日時:2021年12月14日(火)11:00~
(吹)007/ゴールデンアイ【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月30日(木)9:00~
007/トゥモロー・ネバー・ダイ
放送日時:2021年12月14日(火)13:30~
(吹)007/トゥモロー・ネバー・ダイ【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月30日(木)11:30~
007/ワールド・イズ・ノット・イナフ
放送日時:2021年12月15日(水)11:00~
(吹)007/ワールド・イズ・ノット・イナフ【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月30日(木)13:30~
007/ダイ・アナザー・デイ
放送日時:2021年12月15日(水)13:30~
(吹)007/ダイ・アナザー・デイ【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月30日(木)16:00~
007/カジノ・ロワイヤル(2006年)
放送日時:2021年12月16日(木)10:45~
(吹)007/カジノ・ロワイヤル(2006年)【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月31日(金)9:00~
007/慰めの報酬
放送日時:2021年12月16日(木)13:30~
(吹)007/慰めの報酬【日本語吹替版】
放送日時:2021年12月31日(金)11:45~
007/スカイフォール[フルスクリーン版]
放送日時:2021年12月17日(金)10:45~
(吹)007/スカイフォール[フルスクリーン版]【日本語吹替版】
放送日時:2021年12月31日(金)14:15~
007/スペクター
放送日時:2021年12月17日(金)13:30~
(吹)007/スペクター【日本語吹替版】
放送日時:2021年12月31日(金)17:00~
カジノロワイヤル(1967年)
放送日時:2021年12月3日(金)11:00~
(吹)カジノロワイヤル(1967年)【日本語吹替版】
放送日時:2021年12月29日(水)9:00~
ネバーセイ・ネバーアゲイン
放送日時:2021年12月10日(金)11:00~
(吹)ネバーセイ・ネバーアゲイン【地上波吹替版】
放送日時:2021年12月26日(日)13:00~
チャンネル:ムービープラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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