アンソニー・ホプキンスが主演男優賞に！歴史を更新する結果が生まれた昨年のアカデミー賞を振り返る

来る3月28日(日本時間)にロサンゼルスのドルビーシアターで催される第94回米アカデミー賞授賞式。このハリウッド最大のイベントの模様を独占生中継するWOWOWが、それに先立って昨年の受賞作6作品を放映する。

■コロナ禍で行われた授賞式は、アカデミー賞の歴史を更新する結果が続々

コロナ禍まっただ中に開催された2021年の授賞式は、いつものドルビーシアターではなくロサンゼルスのユニオン駅がメイン会場となった。例年よりも参加者の数を抑え、オーケストラの生演奏やパフォーマンスを控えるなどの感染防止対策を施して開催。その一方でいくつかの「史上初」となるノミネート＆受賞結果が生まれ、アカデミー賞の歴史が更新された年でもあった。それらの画期的な出来事は、今回の特集のラインアップからもうかがい知ることができる。放映される6作品を紹介していこう。

まず最多10部門ノミネートのNetflix映画『Mank／マンク』を退け、作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞の4冠に輝いた『ノマドランド』。経済不況のあおりを食って現代のノマド(遊牧民)となり、車上生活者としてアメリカ各地を放浪する中年女性の旅路を描き上げたロードムービーだ。原作はジェシカ・ブルダーのルポルタージュ「ノマド：漂流する高齢労働者たち」。フィクションとドキュメンタリーの要素を巧みに融合させた中国系のクロエ・ジャオの監督賞受賞(非白人女性のこの部門の受賞は史上初)は順当だったが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』のエメラルド・フェネルも候補に名を連ね、アカデミー賞史上初めて2人の女性監督が監督賞ノミネートを果たした。

劇作家フロリアン・ゼレールの監督デビュー作『ファーザー』は、ロンドンで暮らす認知症の老人の内面に迫ったヒューマン・ドラマ。主人公の主観を取り入れ、現実と幻想、現在と過去の境界が曖昧になっていく斬新な演出を披露したゼレール監督は、共同脚本のクリストファー・ハンプトンとともに脚色賞を受賞した。また、昨年の授賞式のトリを飾った主演男優賞部門では、『マ・レイニーのブラックボトム』の故チャドウィック・ボーズマンが本命視されていたが、いざフタを開けてみればアンソニー・ホプキンスが受賞して一大サプライズとなった。無論、ホプキンスの迫真の演技は圧巻で、83歳での受賞はこの部門における最高齢記録を塗りかえた。

『ミナリ』は1980年代のアメリカ南部を舞台に、韓国系の移民家族が幾多の苦難に見舞われながらもたくましく生きていく姿を見つめた感動作。毒舌家の祖母を演じたベテラン女優ユン・ヨジョンが助演女優賞を受賞し、ユーモラスなスピーチで授賞式を盛り上げた。
また、1960年代末のシカゴを背景にした『ユダ＆ブラック・メシア　裏切りの代償』は、先鋭的な黒人解放運動を展開したブラックパンサー党とFBI、警察との抗争を描いた実録サスペンス。かつて『ゲット・アウト』で共演したこともあるダニエル・カルーヤ、ラキース・スタンスフィールドが助演男優賞にＷノミネートされ、ブラックパンサーの指導者フレッド・ハンプトンを熱演したカルーヤがオスカー像を手にした。

惜しくも受賞は逃したものの、『ミナリ』からは韓国系アメリカ人のスティーヴン・ユアンも主演男優賞にノミネート。演技部門の候補者には有色人種の俳優が9人も名を連ね、わずか1人(『ハリエット』のシンシア・エリヴォ)だった前年から飛躍的に増えたことも特筆に値する。

「北欧の至宝」マッツ・ミケルセン主演作『アナザーラウンド』は、国際長編映画賞を受賞したデンマーク映画。生徒から「授業がつまらない」と苦情を突きつけられた無気力な高校教師と3人の同僚が、血中アルコール濃度を0.05％に保てば仕事の効率が上がるという理論を実践していく姿を描くビターなコメディだ。監督賞にもノミネートされたトマス・ヴィンターベアは、撮影時に娘を亡くすという悲劇を経験。国際長編映画賞の受賞スピーチでは、娘のためにも「人生を祝福する映画を作りたかった」と作品に込めた思いを明かした。

そして最後の『TENET テネット』は、もはや説明不要のクリストファー・ノーラン監督による壮大なスケールのSFスパイ・アクション。作品賞などの主要部門には食い込めなかったものの視覚効果賞を受賞。「時間の逆行」をビジュアル化するというノーランの途方もなくチャレンジングな構想を実現させたテクノロジーは、評価されてしかるべきクオリティだった。

はたして今年のアカデミー賞授賞式は、いかなるドラマやサプライズが生まれるのか。本特集で年に一度の祝祭気分を高め、授賞式当日を迎えよう！

文＝高橋諭治

高橋諭治●映画ライター。純真な少年時代にホラーやスリラーなどを見すぎて、人生を踏み外す。「毎日新聞」「映画.com」「ぴあ＋〈Plus〉」などや、劇場パンフレットで執筆。日本大学芸術学部映画学科で非常勤講師も務める。人生の一本は『サスペリア』。世界中の謎めいた映画や不気味な映画と日々格闘している。

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