その名前と顔、身体だけで一定数の客を呼べるアクションスターはなかなか少なくなった。もちろんアクションは映画の華で、いまもトム・クルーズやブラッド・ピット主演の作品が劇場の大スクリーンを飾っている。アクション映画の分派としては、様々なスターが色とりどりのスーパーヒーローに扮して大暴れするコミック原作の超大作も引っ切りなしにやって来ており、だからジャンルとしてはまだまだ百花繚乱といえるだろう。
だがしかし、今回お話ししたいのはそういう特大ハンバーグとミックスフライの合盛りランチのような、目にも腹にもガツンとくる映画のことではない。喩え話をすればするほどわかりにくくなることを承知のうえで言うと、つまりサバの塩焼き定食のようなアクション映画。確かに脂も乗っていて旨いのだが、決して腹がもたれることはなく、と同時にしっかり何か食ったなあ、という感触をもたらしてくれる作品である。
決して派手ではないがチープでもない。そんな映画に主演して場を保たせられる俳優が現在どれだけ存在するだろうか、という話である。いまや希少になってしまった、その類のスターの一人がジェイソン・ステイサムではないだろうか。案の定わかりにくいことになってきたが、気にせず話を先に進める。
シルヴェスター・スタローンらと肩を並べる映画史上でも極めて重要な存在
ジェイソン・ステイサム。そうは言っても大傑作『ワイルド・スピード/スーパー・コンボ』(2019年)や『MEG ザ・モンスター』(2018年)など、無闇にスケールの大きな、特盛りパワーランチ的作品で主演を飾っている、十分にド派手なスターではある。が、この人について特筆すべきはこれらメガ大作と同時進行で、やけに渋い中~小規模作品の主演を務めていることだ。
ガイ・リッチー監督の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998年)で映画デビューというから、キャリアはそろそろ25年。その後は一時期テレビ洋画劇場の定番だった「トランスポーター」シリーズ、あるいはテンションが下がったら即死してしまうため主人公が考えつく限りの無茶苦茶をやり続ける「アドレナリン」シリーズなどで一世を風靡した。
10年近くキャリアを重ねた結果、新旧肉体派スター勢揃いのシルヴェスター・スタローン監督作品『エクスペンダブルズ』(2010年)で使い棄て傭兵チームの若頭ポジションを得る。それまで地道にアクション作品で気を吐いてきたことが評価されての抜擢であったことは間違いないはずだ。スタローンやドルフ・ラングレン、アーノルド・シュワルツェネッガー。あるいは、ジェット・リーといった俳優たちが1980~90年代におけるアクション専業俳優のレジェンドであるとすれば、そのあと同ジャンルで孤軍奮闘してきたステイサムは彼らとそれ以降とを繋ぐ、ある種のミッシングリンクであると言えはしまいか。ステイサムをなんとなくそこにいるスターだと思ってはいけない。この人は映画の歴史上、極めて重要な役割を果たしている男なのである。
ジェイソン・ステイサムの魅力がわかる味わい深い作品たち
『エクスペンダブルズ』以前も以後も、ステイサム主演作には確かな満足をもたらしてくれるアクションの佳作が揃っている。例えば、ロンドンを舞台にした強盗ドラマ『バンク・ジョブ』(2008年)はどうだろう。実話を基にした犯罪物語にステイサムが華を加える。前髪が後退した細眼の男がガラガラ声で喋っても華はあるのだ。
そして、ロバート・デ・ニーロと共演した『キラー・エリート』(2011年)。イギリス特殊部隊SAS上がりの傭兵(ステイサム)が名うてのプロフェッショナルと組んで走り、撃ち、戦う作品にはかつて大人が読んでいた冒険小説の味わいがある。決して派手ではないが、こういう映画を時々(あるいは頻繁に)観たくなるものだ。
さらに、グッと来るのが『ハミングバード』(2013年)。ステイサムは元特殊部隊のホームレスを演じる。妻も子もありながら、かつての因縁のせいで普通の生活を送れなくなった男が、街のはずれで生きる少女や過去に傷を持つ修道女との交流を通して、再び生きる意味を見出していく。上映時間106分の同作には特に派手なスーパー・スタントがあるわけでもない。わかりやすいロマンスもない。あるのは予めすべてを失った男が再起して、あまり勝ち目のなさそうな戦いに挑む物語だけだ。これが渋さというものなのかもしれない。そしてこのような渋さを嫌味なく演じ、こちらの心を鷲掴みにできる男がいまどれだけいるのかと考える。ステイサムの貴重さを、やはり我々はあまりわかっていないのではないか。そんなことを思わされる。
かと思えば、ケレン味と無茶なスタントがてんこ盛りの単独主演作を送り出してきたりもするから油断ができない。ステイサムが殺し屋を演じるサスペンス・アクションの第2作『メカニック:ワールドミッション』(2016年)などを観ると、前作がチャールズ・ブロンソン主演の無骨な映画のリメイクであったことをつい忘れてしまう。
それこそ、「ワイルド・スピード」シリーズのスピンオフを、ドウェイン・ジョンソンとの二枚看板でブチ上げられる男なわけで、渋さと共に確かな華があるのだ。考えるほどに得がたい人材である。いよいよスタローンの跡目を継いでアクションスターのチームを引っ張ることになる(おそらくド派手な)最新作『エクスペンダブルズ4』が楽しみでならないが、同時に身のギュッと締まったアクションの佳作でも引き続き魅せてもらいたいと思う。
文=てらさわホーク
てらさわホーク●ライター。著書に「シュワルツェネッガー主義」(洋泉社)、「マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?」(イースト・プレス)、共著に「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」(イースト・プレス)など。ライブラリーをふと見れば、なんだかんだアクション映画が8割を占める。
放送情報
ハミングバード
放送日時:2022年10月1日(土)13:00~、14日(金)17:00~
バンク・ジョブ
放送日時:2022年10月1日(土)15:00~、14日(金)19:00~
キラー・エリート(2011)
放送日時:2022年10月1日(土)17:00~、17日(月)18:45~
キラー・エリート(2011)[吹]
放送日時:2022年10月6日(木)21:00~
SAFE/セイフ
放送日時:2022年10月1日(土)19:15~、17日(月)21:00~
PARKER/パーカー
放送日時:2022年10月1日(土)21:00~、11日(火)22:45~
WILD CARD/ワイルドカード
放送日時:2022年10月1日(土)23:15~、11日(火)21:00~
チャンネル:WOWOWプラス
メカニック:ワールドミッション
放送日時:2022年10月11日(火)1:00~、19日(水)11:00~
メカニック:ワールドミッション[吹]
放送日時:2022年10月30日(日)21:00~
トランスポーター
放送日時:2022年10月10日(月・祝)17:00~、22日(土)13:00~
トランスポーター2
放送日時:2022年10月10日(月・祝)18:45~、22日(土)14:45~
トランスポーター3 アンリミテッド
放送日時:2022年10月10日(月・祝)21:00~、22日(土)17:00~
チャンネル:ムービープラス
エクスペンダブルズ [R15+]
放送日時:2022年10月16日(日)17:00~
エクスペンダブルズ2 [PG12]
放送日時:2022年10月16日(日)19:00~
エクスペンダブルズ3 ワールドミッション
放送日時:2022年10月16日(日)21:00~
エクスペンダブルズ3 ワールドミッション[吹]
放送日時:2022年10月16日(日)12:00~
ミニミニ大作戦(2003)
放送日時:2022年10月4日(火)19:00~、30日(日)8:00~
チャンネル:ザ・シネマ
デス・レース
放送日時:2022年10月9日(日)19:00~、20日(木)10:10~
チャンネル:スターチャンネル2
デス・レース[吹]
放送日時:2022年10月3日(月)10:00~、16日(日)4:40~
チャンネル:スターチャンネル3
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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