独自の感性と洞察力で日本映画界に新風を吹き込んだ、伊丹十三監督の長編全10作品4Kデジタルリマスター版を日本映画専門チャンネルで1月8、9日にTV初放送(2Kダウンコンバートにて放送)。伊丹監督との仕事から作品づくりに大きな影響を受けたという周防正行さんに、その魅力を語ってもらった。
51歳でデビューを飾った"監督・伊丹十三"の『お葬式』は、大きな驚きとともに迎えられた。
「1980年代の日本映画は、極端にいえば一般の観客から全く相手にされていなかったんです。当然興行成績も悪くて、どん底の時代でした。そんな状況の中で、『お葬式』は小規模公開からのスタートにもかかわらず、誰もが見るような大ヒット作品になりました。日本映画界にとっての革命であり、僕を含めた映画制作者たちが勇気づけられる、強烈な刺激だったんです」
この『お葬式』と、続く『タンポポ』は、「伊丹さんの根っこにあるものを表現した特別な2本」だと周防さんは言う。
「『お葬式』は伊丹さんの映画への憧れやものづくりの感性などを全面に出して、"撮りたい映画を撮る"作家的な要素が強い作品だったと思います。一方、『タンポポ』ではドキュメンタリー制作者でもあった伊丹さんのテレビ人としての力が映画の中に色濃く出ています。当時、映画人が馬鹿にしていた"テレビ的であること"を映画的に展開する、極めて異質な作品でした」
メイキングビデオ監督として周防さんは『マルサの女』に参加し、伊丹監督の仕事に触れた。
「伊丹さんは『アメリカの娯楽映画と勝負できる映画を作らないとダメだ』と言っていました。その実現のための工夫の1つが、日本映画の経済的な貧しさを了解した上で、どうすれば豊かな画を作れるか。1つの答えは、画角を狭くして"奥行きで勝負する"でした。例えば、積雪は外階段の手すりで見せて、その奥に芝居場を作る。広い引き画で状況を見せるのは作り込むのが大変。細部を完璧に作り込むことで豊かな画を作ったんです」
周防さんが忘れられないのは、自身の一般商業映画デビュー作『ファンシイダンス』(1989年)を見てもらったときのこと。
「感想は『良くも悪くも日本映画だね』でした。これではダメだと言われたわけです。だったらアメリカの娯楽映画に対抗できる作品を作ってやる! という思いが、のちの『シコふんじゃった。』につながります。伊丹さんから学ばせてもらったのは、人にものを伝えることの難しさです。表現したいテーマについて、自分が何を面白いと感じたのか、多くの人にちゃんと伝えないといけない、と。この伝え方は伊丹さん自身が一番苦心して考えていたことだと思います」
すお・まさゆき●1956年生まれ、東京都出身。1987年に映画『マルサの女』のメイキングを監督。主な監督作は『シコふんじゃった。』(1992年)、『Shall we ダンス?』(1996年)など。伊丹十三賞の選考委員を務めている。
取材・文=山崎ヒロト
放送情報
お葬式〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月8日(日)13:00~
タンポポ〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月8日(日)15:20~
マルサの女〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月8日(日)17:30~
マルサの女2〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月8日(日)19:50~
あげまん〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月8日(日)22:10~
ミンボーの女〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月9日(月)00:20~
大病人〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月9日(月)06:00~
静かな生活〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月9日(月)08:10~
スーパーの女〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月9日(月)10:20~
マルタイの女〈4Kデジタルリマスター版〉
放送日時:2023年1月9日(月)12:40~
チャンネル:日本映画専門チャンネル、日本映画+時代劇4K
※日本映画専門チャンネルでは2Kダウンコンバートにて放送
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