妻夫木聡松山ケンイチの共演で1970年前後の日本の若者を描く、衝撃の回想録

2023年は、1月スタートのTBS系「日曜劇場」で放送されるドラマ「Get Ready!」での主演が決まっている妻夫木聡。表の顔はパティシエ、しかし裏の顔は法外な報酬と引き換えに違法なオペをする闇医者チームの執刀医・エースこと波佐間永介を演じる。このドラマでバディとなるのが、表の顔は優秀な国際弁護士で、裏ではオペ患者との交渉役を担うジョーカーこと下山田譲。下山田を演じる藤原竜也とは、約20年ぶりの共演となる。

また、2010年から続き、妻夫木が出演しているサッポロビールのCMシリーズ「大人エレベーター」は、さまざまな年代を代表する大人と妻夫木が語り合い、2人の素の会話が好評な長寿シリーズだ。妻夫木は相手役との「ケミストリー」、すなわち化学反応でその輝きが増す役者なのかもしれない。

映画「マイ・バック・ページ」では松山ケンイチと奇妙な関係を築いた。評論家・川本三郎のノンフィクション「マイ・バック・ページ ある60年代の物語」を原作とした本作は、「リンダリンダリンダ」「天然コケッコー」の山下敦弘が監督を手掛けた。川本三郎と、週刊プレイボーイの記者が犯人を手助けし、「赤衛軍」を自称した新左翼によって勤務中の自衛官が殺害されたテロ事件「朝霞自衛官殺害事件」を下敷きにした作品。エンタテインメントというよりはドキュメンタリーのような作品で、1970年代の日本がリアルに描かれている。

舞台は1969年から1972年の反戦運動や全共闘運動が起きた激動の時代。主人公の沢田(妻夫木聡)は、東大在学時に学生運動に憧れを抱きながらも東大安田講堂事件に参加することなく傍で見ていた。ジャーナリストになっても学生運動への憧れを捨てきれずにいたが、与えられた仕事は500円だけ持って東京を放浪するという体験企画の記事。くすぶっている中、沢田は先輩記者から赤邦軍リーダーを自称する梅山(松山ケンイチ)を紹介され、彼の活動に傾倒していく。

妻夫木演じる沢田も松山演じる梅山も、革命の熱に憧れ、「何者かになりたい」「何かを成し遂げたい」と理想や志だけは高いが、どこかふわふわしている男だ。2人はそれぞれ互いを利用しながら、自らの夢を叶えようと奮闘する。

妻夫木と松山は、意外にもこの作品が初共演。松山は完成披露試写会で妻夫木の演技を「"普通"を演じさせたら勝てない。今回も、凄いっす」と評したが、見る者は、妻夫木演じる沢田のもがく姿に共感する。彼の演じる人物は、自分と同じ「普通の人」だから...。

妻夫木が見せたラストの長回しでの泣きのシーンは圧巻。この作品、最大の見どころだ。劇中で、モデルの眞子(忽那汐里)と映画を見た後、彼女に「『真夜中のカーボーイ』でダスティン・ホフマンは"怖い、怖い"って泣いたの。私はきちんと泣ける男の人が好き」と言われるシーンがある。沢田は「泣く男なんて男じゃないよ」と言ったが、ラストではその沢田が泣いている。身分を隠した放浪企画で世話になったうさぎ売りの青年・タモツ(松浦祐也)が営む店で、声も出さずにボロボロ泣く。底辺でも地に足をつけて生きてきた普通の人・タモツと、高尚な理想を追いかけて何者にもなれなかった沢田と梅山。これは、怖さを受け入れた者と受け入れられなかった者の違いなのかもしれない。妻夫木聡と松山ケンイチという2人の俳優によるケミストリーと、何者にもなれなかった普通の男の挫折をこの作品で体感してほしい。

文=坂本ゆかり

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放送日時:2023年1月11日(水)17:30~
チャンネル:WOWOWプライム
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