変幻自在の肉体改造!見た目や印象までも変えてしまう鈴木亮平のスゴさ
- コラム
- 2023.01.31
俳優の「肉体改造」。このワードを聞いて、鈴木亮平を思い浮かべる人は少なくないだろう。いや、どんな俳優でも役によって多少は体重の増減をさせることはあるだろうが、鈴木のように全身のフォルムや見た目の印象までガラリと変えてしまう30代の俳優はほかにはいない。しかも一度だけではなく、何度も太ったり痩せたりを繰り返して役の人物になりきるのが彼のスゴいところ。この変幻自在の肉体改造は、その先駆者でもあるマーロン・ブランドやロバート・デ・ニーロの役へのアプローチにも匹敵するものだ。
■異なるタイプの増量で漫画原作のキャラクターを体現
それだけに漫画原作のキャラからNHK大河ドラマ「西郷どん」の西郷隆盛、『孤狼の血 LEVEL2』(2021年)の残虐なヤクザ役まで印象に残る人物を演じることも多い。中でも、鈴木の肉体改造に誰もが一番驚いたのは、2015年の『俺物語!!』で演じた剛田猛男だろう。原作は、高校生とは思えない、いかつい顔と巨体を持った主人公、猛男の実直なキャラクターが話題になった少女コミック。鈴木はそんな異色のキャラのイメージを損なうことなく、忠実に再現するために約30kgもの増量に挑んだのだ。
何も情報を知らない人は、同作の映画のポスターやチラシを見ても、それが鈴木だとは気づかなかったかもしれない。それぐらい、本人とはまったく違う人物になっていた。どことなくユーモラスな愛すべき巨体、太い眉毛や剛毛のもみあげとは裏腹の優しい瞳。そんな猛男の身体を最大限に生かした、鈴木のコミカルな芝居に爆笑した人も多いに違いない。
女子高生の大和凛子(永野芽郁)にひと目惚れした猛男は、彼女に対する溢れる想いを天に向かって「好きだ~!」と叫ぶことで爆発させる。映画の前半では、その「好きだ~!」の怒声と、それを発する猛男のインパクトのある顔面のアップが連続。鈴木はそんな奇抜なシーンも全力で成立させ、入部した柔道部の仲間を「好きだ~!」と叫びながら放り投げるシーンでは、「笑い」をより強烈なものにすることで、大和への想いがどんどん膨れ上がっていくことを伝えていた。
「いかつい風貌」の猛男は、女子が自分のことを好きになるはずがないと最初から諦めていて、大和も自分ではなく、幼なじみで親友のイケメン、砂川誠(坂口健太郎)のことが好きなんだと思い込んでしまう。そういう猛男の勘違いの連続も本作の楽しいところだが、ここでは砂川と大和をくっつけようと勝手に奔走する猛男の優しさやピュアな魅力も全開。彼のゴツい身体から鈴木本人の持ち前の優しさが滲み出ていて、製作陣がこの役に彼をキャスティングした理由がなんとなくわかったような気がしたものだ。
役に近づくために、身体そのものを変える。それを当事者以外の人は肉体改造という言葉で簡単に表現しがちだが、そのアプローチは多彩で、決して一括りにできるものではない。そのことは、『俺物語!!』の鈴木と『HK/変態仮面』(2013年)の彼を見比べてみれば明らかだ。
鈴木は本作でも15kg増量したが、ただただ身体を大きくした猛男の時とは違い、増量後に脂肪を削ぎ落とすことで変態仮面こと色丞狂介の引き締まったボディを自分のものに。美しい身体で変態仮面のキレッキレのアクションに説得力を持たせ、その肉体の美しさからは信じられない「変態性」を強調させていた。
この作品でも、鈴木のコミカルな芝居が大暴走!監督が「銀魂」シリーズ、「今日から俺は!!」シリーズなどの奇才、福田雄一監督だから当然と言えば当然だが、福田組のムロツヨシや佐藤二朗らと激突しても、彼らにも負けないくだらな過ぎるギャグで観る者を爆笑の渦に。
それこそ、自分の変態性と葛藤し、それを正義のためだと正当化しながら悶々とする、何度も出てくる鈴木の一人芝居とナレーションは、最高にバカバカしくて面白い。安田顕が扮したニセ変態仮面とのクライマックスでも、文字通りの「肉弾」戦でガチのアクションを炸裂させながら笑わせる。こんなこともなりふり構わずできちゃうところが、鈴木の器の大きさとポテンシャルの高さなのだ。
とはいえ、同作の続編『HK/変態仮面 アブノーマル・クライシス』(2016年)は、『俺物語!!』の後か同時期の撮影。どうやって猛男から変態仮面になったのか。その秘策をいつか本人に聞いてみたいところだ。
■様々な過去や葛藤を抱えた人物になりきる確かな演技力
ここまでは鈴木が体重を増量して臨んだコメディの代表作を取り上げてきたが、彼がそれだけではない、繊細な芝居でも注目を集める実力派俳優であることは周知の通りだ。50年ぶりにハンセン病療養所を出た祖父に初めて会ったジャズを愛する青年を演じた『ふたたび swing me again』(2010年)など、早くからその演技力の高さを示してきている。
さらに、同名の舞台劇を「孤狼の血」シリーズの白石和彌監督が映画化した『ひとよ』(2019年)の彼を見れば、そのことを改めて確信する。母親のこはる(田中裕子)が3人の子どもたちを守るためにDV夫を殺害する、衝撃のシーンから始まる本作。映画はそれから15年後に移り、事件によって人生を狂わされた兄妹3人の心の傷と葛藤、自宅に帰ってきた母親の想いと彼女に対する子どもたちの怒りや複雑な感情を生々しく描き出していた。
この作品で鈴木が演じたのは長男の大樹だが、どこか自信なさげで伏し目がちの彼は、佐藤健が演じたゴシップ記事を書くフリーライターの次男・雄二や、松岡茉優が扮したスナックで働く長女の園子に比べて影が薄い。
佐藤は、邪悪なものを抱えた雄二を荒々しい芝居で体現。松岡は、崩壊しそうな家族を必死に繋ぎ止めようとする園子を感情に素直なストレートな言動を炸裂させることで表現。こはる役の田中も、自分がやったことは間違いではないと思い込むようにしている母親に、優しい眼差しと揺るぎのない芝居で説得力を持たせている。
まさに、いい意味での「芝居のモンスター」たちが激しく火花を散らしているのだが、大樹だけは思ったことを上手く伝えられない。家族想いだが、吃音が激しいこともあって言葉を呑み込んでしまい、そのせいで妻の二三子(MEGUMI)にも離婚を迫られる始末だ。
そんな大樹を、鈴木は主人公の病弱な兄を20kgの減量で演じたドラマ「天皇の料理番」を想起させる瘦せ細った肉体となで肩、脅えた瞳で体現しているから最初は目を疑う。そこには猛男の豪快さも変態仮面のイキイキとした躍動も、鈴木から感じられる清々しさもない。代わりに、我慢することに慣れてしまった長男の苦しみや悶々とした想いが伝わってくる。
それだけに、ウイスキーを口に注ぎ込み、その勢いで弟の雄二に大切なことを伝えようとする大樹は真に迫るものがある。抑えていた想いを爆発させるシーンも、家族を描いた本作の肝とも言える重要なものになっている。決して計算したわけではないだろうが、振り返ると、それまでの鈴木の芝居がいかに繊細で、微妙なバランスで行われていたのかがよくわかるはずだ。
そんな鈴木亮平も、3月29日についに40代に突入する。脂の乗りきった彼が次なるステージでどんなパフォーマンスを見せてくれるのか楽しみだが、過剰な体重の増減はファンのためにもそろそろ控えた方がいいかもしれない。
文=イソガイマサト
イソガイマサト●映画ライター。独自の輝きを放つ新進女優、ユニークな感性と世界観、映像表現を持つ未知の才能の発見に至福の喜びを感じている。「DVD & 動画配信でーた」「J Movie Magazine」「スカパー! TVガイド」「ぴあアプリ」「MOVIE WALKER PRESS」や劇場パンフレットなどで執筆。映画やカルチャー以外の趣味は酒(特に日本酒)と食、旅と温泉めぐり。
放送情報
俺物語!!
放送日時:2023年2月6日(月)21:00~、9日(木)8:40~
ひとよ<PG-12>
放送日時:2023年2月6日(月)22:55~、13日(月)8:30~
ふたたび swing me again
放送日時:2023年2月7日(火)21:00~、17日(金)8:25~
HK/変態仮面<PG-12>
放送日時:2023年2月7日(火)23:00~、10日(金)8:20~
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります