中谷美紀が体当たりで恋愛至上主義の女性を演じる！20代の永山瑛太と共に振り返るその一生から目が離せない映画「嫌われ松子の一生」

主演ドラマ「連続ドラマW　ギバーテイカー」がＷＯＷＯＷで放送・配信中の中谷美紀。女優として30年のキャリアを積み、現在はオーストラリアに移住している彼女が日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得した映画が2006年に公開された「嫌われ松子の一生」だ。ベストセラーになった原作の小説をミュージカル風にカラフルに味つけしてエンターテインメント作品として昇華させた監督は「下妻物語」、「告白」、「来る」などの中島哲也。中谷が演じるのは昭和から平成にかけて壮絶な人生を送った主人公の松子で、どんな女性だったのか松子亡き後に親友や恋人を通じて知ることになる甥っ子、笙をまだ20代の永山瑛太が演じている。撮影は睡眠時間がほとんど確保できないぐらいにハードで、監督の厳しいダメ出し落ち込んだというのは有名なエピソードだが、主演女優賞に輝くのも納得。幼少時のトラウマを引きずりながらも次々に襲いかかる不幸な出来事から這い上がり、ジェットコースター並みのスリルで波乱万丈に生きた松子を全力で演じきっている。

■追い詰められると"変顔"をしてしまう松子を中谷がコミカルかつパワフルに演じる

53才という若さで東京の下町のアパートのそばで殺されていた松子。父親であり松子の弟(香川照之)に片付けを命じられた笙は散らかり放題のアパートの部屋で光GENJIのポスターと松子の変顔をした成人式の写真を見て叔母に興味を持つ。物語は松子の人生をプレイバックするスタイル。思い出とアパートにいる笙が松子と深く関わった人物と出会う設定がクロスしながら進行していく。

地元、福岡で学校の先生をしていた松子は歌が上手く人気者の教師。しかし、修学旅行先で受け持ちの生徒がお金を盗む事件が起き、なんとか上手くおさめようとするあまり自分が盗んだことにしようとするが、最終的に学校にバレて変顔をしてしまい、退職。バッグに荷物を詰めて家を飛び出し、松子の転落人生が始まっていく。リアルに撮ったら、やりきれない面も多々あるストーリーだが、昔のハリウッド映画風の演出や音楽と共にショーアップされた映像を織り混ぜているから観客を飽きさせない。昭和30年、松子７才のエピソードもデパートの遊園地を舞台にファンタジックに描かれ、病弱な妹(市川実日子)をいつも心配している父親(柄本明)を笑わせたくて変顔をするクセがついたことがその後の松子の人生を左右していく。作家志望のDV男(宮藤官九郎)と恋に堕ち、次々と男たちに裏切られ、ついには殺人まで犯してしまう松子。刑務所に入っても、好きな人に会う日を夢見て美容師の免許をとり、人生終了の崖っ淵から何度も這い上がる松子の生き様を中谷が体当たりの演技で魅せる。

■恋愛至上主義だった松子は果たして幸せだったのか？

病弱ゆえに可愛がられている妹を妬み、愛に飢えた少女時代を過ごした松子は大人になっても"愛されたい"願望をコントロールできずに暴走し、幸せな未来を夢見る気持ちが空回りし、結果、自分がボロボロになる。しかし、そんな人生が不幸だったかというと決してそうではない。瞬間、瞬間を全力で生きてきた松子だからこそ、通常運転では感じられないこの上ない幸せなひと時もたくさん味わっててきたはずだ。そして本能のままに生きたゆえに置き去りにしてきた故郷と家族は、彼女に多くのことを気づかせ、涙を流させる。松子の親友にどこか松子に似ていると言われた甥っ子の笙を演じる永山瑛太はファミリーの切っても切れない縁を感じさせる存在。喜怒哀楽の全てを放出し、エネルギーを使い果たすかのように散っていく松子晩年の中谷の演技にも驚かされる。

文＝山本弘子

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