神木隆之介は不思議な魅力を持つ俳優だ。子役からのキャリアを考えると、もはやベテランの域に達しているのに、軽やかで佇まいは涼しげ。コメディからシリアスまで多彩な役をこなす実力派でありながら、現在に至るまでフレッシュさをキープし続けている。
CLAMPの人気漫画を蜷川実花が実写化した映画「ホリック xxxHOLiC」では柴咲コウとW主演を務め、公開当時28歳の神木が演じた高校生役はあまりにも自然体で全く違和感がないことにも驚かされる。原作を読み、映画制作に到るまで10年の月日を費やしたという蜷川監督は、初めてタッグを組んだ神木がどんな要望にも応えてくれる表現力を持っていることに助けられたとコメントしていたが、見えないものが見えてしまう主人公・四月一日(ワタヌキ)という1人の人物を演じているにも関わらず、最初から最後まで表情1つでいろいろな顔を見せる神木の演技はさすがとしか言いようがない。
どんな願いも叶える「ミセ」の妖艶な主人・侑子を演じた柴咲コウとは、神木が10歳の時に出演したTVドラマ「Dr.コトー診療所」以来の共演となった。四月一日の同級生であり、弓で厄を払う寺の息子・百目を松村北斗が、同級生で闇を抱えているひまわりを玉城ティナが演じ、四月一日の特殊な能力に目をつけ、襲いかかるセクシーな女郎蜘蛛を吉岡里帆が、その手下のアカグモ(映画オリジナルキャラクター)を磯村勇斗が演じるなど、豪華キャスト陣が顔を揃える本作。この世のものとは思えないほど美しく幻想的な蜷川ワールドの中で存在感を十二分に発揮している神木の役柄、魅力とは?
■何も期待していない少年を演じる神木の冷たい視線に魅了される
神木が演じているのは人の心の闇に憑りつく「アヤカシ」が見えてしまう、孤独を抱えた高校生。学校にいる時も街を歩いている時も、視界に入る黒いモヤから逃げるように生きている四月一日は「もう終わりにしたい」「これ以上、何も見たくない」と自ら命を絶とうとするが、その瞬間、周囲を飛び回る蝶に気がつき、導かれるように「ミセ」の中に入り、そこで、対価を貰うことを条件に、どんな願いも叶えてくれると言う美しい女主人・侑子に出会う。ミステリアスな彼女の能力を目の当たりにした四月一日はやがて家政夫として「ミセ」に住み込むことになるのだが、誰のことも信じられず、何も期待していない少年の心情を視線ひとつで表現する神木は、爽やかな役やコミカルな役を演じている時とは別人のようなオーラを放っている。
■出会いによって変わっていく主人公の視点と多彩な表情から目が離せない
「この世に偶然なんてない。あるのは必然だけ」と言い、自分に向き合うよう助言する侑子。そして同級生のひまわりとクールな反面、情に厚い百目と出会ったことによって四月一日の表情は徐々にやわらいでいく。映像もあいまって夢なのか現実なのか境目が曖昧なストーリー展開の中、幼少期のフラッシュバックに襲われて我に返った時の顔や、「どうせ運命は変えられない」と苦悩する場面では、心の傷の深さを想像させる。殻を破るためにもがく主人公の心理を巧みに表現する神木は観る者を翻弄し、誕生日である四月一日に起こる不思議な出来事では危うい世界に巻き込んでいく。侑子と心を通わせた時の美しい横顔、人生を自分で選択したエンディングで見せる顔まで、その演技から目が離せない。
文=山本弘子
放送情報
ホリック xxxHOLiC
放送日時:2023年3月21日(火)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
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