CGを駆使してリアルに描かれた巨大な護衛艦や戦闘機をはじめ、原作コミックのスケール感を表現したパワフルな映像もすごい。だが、やはり本作の一番の見どころは、艦内という閉鎖空間で繰り広げられる隊員たちの人間ドラマだろう。
なかでも、艦長・秋津と副長・新波の関係性は重要なポイント。そもそも、航空自衛隊出身の秋津はパイロットなので、「戦う時も死ぬ時もたった一人」だが、1艦300人の乗組員が運命を共にする世界の中で生きてきた海上自衛隊出身の新波は「戦う時も死ぬ時も互いの命を預けている」という感覚。ここが、「戦わなければ、守れないものがある」という秋津と、「味方にも敵に対しても、極力死傷者を出したくない」という新波の考え方の違いにも表れる。また、そんな艦長・秋津の「いぶき」を守るため、ほかの全護衛艦が身を挺して戦い、盾になっていく展開に胸が熱くなる。
■戦争という状況そのものが敵という共通認識
日本は戦争をしない国だ。では、戦争を仕掛けられた時はどうなるのか。アメリカがどこまで守ってくれるのか。秋津と新波の関係は、そのまま、もしも日本が戦争に巻き込まれたら...という問いへとつながっている。とはいっても、本作はとことん厳格に「戦争放棄・戦力の不保持・交戦権の否認」という現在の日本の憲法に則って進んでいく。あくまでも戦争映画ではなく、戦争をしないための戦いを描く物語なのだ。相手と戦う力は十分に持っている主人公が葛藤しながらも、訳あって、防衛のための最小限の力しか出さない――という縛りのあるバトルものを観ているようなスリル感がたまらない。
本作のスピリットを鮮やかに象徴しているのが、やむにやまれぬ状況下でミサイルを撃ってくる敵機を撃墜するシーン。全艦内が静まり返り、まるで味方が撃ち落されたかのような雰囲気が漂うなか、秋津がみんなに向かって「忘れるな。この実感は忘れずに覚えておけ」と言う。彼らが安堵の声を上げるのは、相手の攻撃を無力化し、相手も自らも無傷だった時だけだ。ここがアメリカの戦争映画とはまったく違う。終盤、捕虜となった敵のパイロットに秋津が英語で語りかける、静かなクライマックスシーンも必見だ。
本作の公開当時は、とてつもない被害をもたらす戦争という状況そのものが敵という世界共通の認識があった。国際法でも戦争は原則として違法だ。しかし、公開から数年が経った現在、領土拡大のための戦争が現実のものとなり、国際法が意味を持たないこと、一度始まった戦争はなかなか終わらないこと、諸外国の積極的な介入は期待できないことなどがわかってしまった。本作が私たちに投げかけるメッセージの重みはどんどん増すばかりだ。
文=石塚圭子
石塚圭子●映画ライター。学生時代からライターの仕事を始め、さまざまな世代の女性誌を中心に執筆。現在は「MOVIE WALKER PRESS」、「シネマトゥデイ」、「FRaU」など、WEBや雑誌でコラム、インタビュー記事を担当。劇場パンフレットの執筆や、新作映画のオフィシャルライターなども務める。映画、本、マンガは日々を元気に生きるためのエネルギー源。
放送情報
空母いぶき
放送日時:2023年4月8日(土)20:56~、9日(日)12:00~
チャンネル:ムービープラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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