菅田将暉が映画「百花」で見せた、細やかな芝居で積み上げて表現した心の隙間

(C)2022「百花」製作委員会

段々記憶を失くしながら、過去の記憶と現在が混濁する百合子を演じる原田の演技には、認知症という病の恐ろしさをも強制的に感じさせられ、悲しく切なさの中に何度もゾクリとさせられる。一方、そんな母親と向き合う息子を演じる菅田の演技も圧巻。泉は泉の人生と考えがあって、当たり前なのだが"自分が主人公の人生を生きている"というのがしっかりと伝わってくる。

泉というキャラクターはどこか冷めたところがあり、熱い部分を見せる場面は極端に少ない。それは後半に明かされる母子の過去に起きた"ある事件"に起因するものなのだが、菅田は作品冒頭から泉の百合子に対する"心の距離"を、さながらジグソーパズルを組み上げていくように、細かく丁寧に積み上げている。あまり目を合わさない、会話での声の抑揚のなさ、返答する際の微かな間、バスでの別れの際に百合子を見ないなど、細やかなサインを積み上げることで微妙な"心の距離"を紡いでいる。これらは1つ1つでは"心の距離"に成らないちょっとした違和感くらいの小さなものだが、冒頭からラストまでの中に散りばめられたこれらのピースを拾い集めることで"心の距離"の表現になっている。

そして、そんな"心の距離"を抱えながらも、認知症が進行していく百合子を嫌いになれないもどかしい気持ち、"ある事件"での許せない、看過できない思いに苦しむ姿など、自ら感情をアウトプットする"積極的な芝居"ではなく、自分では抑えようとしているのにふと滲み出てしまったような"消極的な芝居"で表現。原田の芝居とは対極にある芝居で魅せることで、2人の立場の違いや目線の違いを表して、観る者の心を揺さぶってくる。

熱くパッション溢れる芝居もいいが、同作のようなこつこつ積み重ねて、じんわりと滲むような表現で心を揺さぶる演技を堪能しつつ、菅田の役者としての奥深さに触れてみてほしい。

文=原田健

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放送情報

百花
放送日時:2023年6月17日(土)20:00~
チャンネル:WOWOWシネマ

放送日時:2023年6月18日(日)20:00~
チャンネル:WOWOWプライム

※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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