これで主演の面目を保つと、第3作『兄弟仁義 関東三兄弟』ではサブちゃん&鶴田コンビに、サブちゃんの義兄弟役・里見浩太朗が加わり、クライマックスは3人の大暴れにスケールアップ。お正月の公開も後押しとなり、『網走番外地 大雪原の対決』との二本立ては日本映画年間1位の大ヒットとなった。ちなみにここまで3作は、すべて日本映画の年間興行ベストテンに入る大ヒットを飛ばしている。
■作品を重ねるごとに看板スターの風格が板についてきたサブちゃん
その勢いに乗って序盤にサブちゃん&鶴田&里見トリオが殴り込む派手な見せ場を用意したのが、第4作『兄弟仁義 続関東三兄弟』だ。ならば、クライマックスはこれを上回るド派手な立ち回りか...と期待していると、今度は鶴田と2人で殴り込むことに。思わず笑ってしまう人を食ったその展開は本編をご覧いただくとして、ここは観客の期待を裏切ったというより、サブちゃんが看板スターとして認められつつある証と捉えたい。その証拠に、前作まで圧倒的存在感で作品を支配していた鶴田は今回、序盤で一旦退場。終盤に再登場するが、全体的にはサブちゃんを中心に物語が進み、主演に相応しい貫禄を身につけていく。
そして第5作『兄弟仁義 関東命知らず』では、ついにサブちゃんが序盤から物語をリード。鶴田の登場は中盤以降で、クライマックスもサブちゃんが1人で殴り込んだ後、鶴田(とサブちゃんの義兄弟役・待田京介)が加勢に駆けつける形となった。ようやくサブちゃんは、誰もが認める看板スターにあと一歩まで辿り着いたのだ。第1作からここまで、ほんの1年4か月。まさに怒濤の出世街道だった。
だがここで、これまで全作を手掛けてきた監督の山下耕作がシリーズを離脱する。元々時代劇志向で、敬遠していたやくざ映画の経験がほとんどなかった山下は、名作時代劇「瞼の母」をヒントにした第1作以降、人情とやくざ社会の掟の間で揺れる男のドラマを作り上げていった。それが持ち味となって以後、任侠・やくざ映画の看板監督に出世すると、1968年の『博奕打ち 総長賭博』は作家・三島由紀夫に絶賛され、「任侠映画の最高傑作」として映画史に名を残す。これは「『兄弟仁義』の逆をやりたい」と手掛けた作品で、主演も『兄弟仁義』で出会った鶴田ということで、山下にとっても本シリーズは大きな転機となった。
こうして『兄弟仁義』シリーズは新たなステージを迎え、サブちゃんの成長を見届けた鶴田と村田も、第6作『兄弟仁義 関東兄貴分』(1967年)を最後にシリーズから去る(ただし、村田は第9作にも出演)。以後は様々な監督たちが、それぞれの持ち味を生かし、独り立ちしたサブちゃんの多彩な魅力を引き出していく。その第2ステージに当たる『兄弟仁義 関東兄貴分』、『兄弟仁義 逆縁の盃』(1968年)、『新兄弟仁義』(1970年)、『関東兄弟仁義 仁侠』(1971年)の4作は、7月に特集放送される。6月、7月と2か月連続で、任侠スター、サブちゃんの出世物語をぜひ見届けてほしい。
文=井上健一
井上健一●埼玉県出身、会社員を経て、映画を中心に執筆・取材を行うライターに。主な執筆媒体は「月刊SCREEN」、「キネマ旬報」、「FLIX」など。書籍に「現代映画用語事典」(共著・キネマ旬報社)がある。2024年ゴールデン・グローブ賞国際投票者。
放送情報
兄弟仁義
放送日時:2023年6月19日(月)12:00~
続兄弟仁義
放送日時:2023年6月19日(月)13:30~
兄弟仁義 関東三兄弟
放送日時:2023年6月20日(火)12:00~
兄弟仁義 続関東三兄弟
放送日時:2023年6月20日(火)13:30~
兄弟仁義 関東命知らず
放送日時:2023年6月21日(水)12:00~
チャンネル:東映チャンネル
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