北村が登場するのは、旭が高校生に成長してから。野球部の後輩の尻をバットで殴ったことを咎められ、安男と言い合いになる。その時の尖った声と上目遣いの攻撃的な眼差しは、反抗期の高校生そのものだ。その時、旭は安男に殴られてしまうのだが、家に戻った安男を、今度は旭が母の死を持ち出して責めたてる。安男にとっては心がえぐられるような言葉だが、加減を知らないそんな旭の姿もまた、若者らしいと言えるかもしれない。
そして言い合いの果てに、突然、安男が自分自身を殴り始める。そこには、旭が人を傷つけるような子供になってしまったことへの悲しみがあった。不器用だが、息子を愛するそんな安男の姿にはホロリとさせられるし、旭もまた、少し泣いているような様子で笑顔を見せる。その笑顔には、父親からの自分への思いに触れた嬉しさがこもっているようにも見える。
また、自分たちを支えてくれた住職の看病の帰り、顔を歪めて旭が泣き出すシーンでは、押し寄せる悲しみに抗いきれない様子が伝わってくる。その時々の旭の心情が伝わってくるのは、やはり北村の演技の力だろう。父として旭をしっかり包み込む阿部の演技もさすがで、いつの間にか2人が本当の親子のように見えてくるから不思議だ。
旭はその後大学に受かり、東京へ出て一人暮らしを始める。やがて就職し、さらには結婚の話まで持ち上がる。旭が自分の人生を開拓していくたびに、喜びながらも素直になれない安男には手を焼くが、何があっても安男は旭を愛し、旭もまた安男を思っているのが、セリフからも、演技からも伝わってくる。
北村はもちろん、阿部の秀逸な演技によって、本作は"家族の絆"が強く感じられる作品になっている。今の時代だからこそ、ぜひ見ていただきたい作品だ。
文=堀慎二郎
放送情報
とんび
放送日時:2023年7月29日(土)20:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
放送日時:2023年7月30日(日)10:00~
チャンネル:WOWOWプライム
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