人物の感情はもちろん、その奥底に潜む狂気までも体現してしまう名優・綾野剛。さまざまな役柄を演じる中でも、刃の上で生きているようなアウトロー的な役柄がよく似合うとされる。
水商売や風俗で働く女性をスカウトするスカウトマンを演じた映画「新宿スワン」、北海道警の不祥事を描いた映画「日本で一番悪い奴ら」などの話題作でも主演を務めた。「日本で一番悪い奴ら」では、第40回日本アカデミー賞の優秀主演男優賞を受賞したことが記憶に新しい。
アウトローの世界に生きる人物を綾野が演じた作品として外せないのが、「闇金ウシジマくん」シリーズだ。原作は闇金会社「カウカウファイナンス」を経営する丑嶋馨こと"ウシジマくん"が主人公の人気コミックで、債務者の欲望や悲哀、また、対立する組織との抗争を描いた問題作だ。
山田孝之をウシジマ役に据えて、最初にドラマ化されたのは2010年。その後ドラマはSeason3、映画は第4作まで制作されるほどの人気を誇った。綾野は同シリーズでは、ウシジマと幼馴染であり協力関係にある情報屋・戌亥として、ドラマではSeason2から、映画ではPart2から登場する。ここではウシジマや戌亥の過去が語られる映画「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」にスポットを当ててみよう。
物語は、中学の時の同級生・竹本優希がカウカウファイナンスを訪れるところから始まる。竹本はウシジマに融資を頼むが、金利の高さから借りるのを諦めたようで、その後路上で寒さに震えているシーンが映し出される。そして運が悪いことに、竹本は金のない者から労働力を搾取する貧困ビジネスに取り込まれてしまう。
「誠愛の家」なる場所で貧困ビジネスを展開するのは、中学時代にウシジマが叩きのめした鰐戸三兄弟。鰐戸らだけでなく、法律を盾に債務を踏み倒そうとする弁護士・都陰亮介らとウシジマの戦いが始まる。
綾野が演じる戌亥が最初に登場するのは、ドラマでもお馴染みの駄菓子屋の前。戌亥は駄菓子が大好きという設定で、ウシジマと戌亥が駄菓子を並べ、顰め面でぼそぼそと会話するシーンは、シュールでありながらほのぼのする人気のシーンのひとつだ。
昭和の匂いのする「オートレストラン」でのシーンでは、中学時代の回想と同じくうどんをすすり、戌亥が実家のお好み焼き店に誘ったりもする。「ウシジマくんが来たら、母ちゃん喜ぶからさ」という、何気ないセリフにウシジマへの親愛の情が感じられるあたりに、幼馴染らしさがよく出ている。
そしてウシジマが窮地に立たされた時に、戌亥の爽快な活躍を見ることができる。都陰に追い込まれそうになった時、債務者のふりをして都陰の事務所に相談に行くシーンでは、借金に苦しむ陰気な雰囲気が伝わってくる。柄崎らウシジマの部下が拉致された時には、危険な匂いを感じ取ったような心配そうな表情を見せ、ウシジマらを救った後の車内では、短い会話だけで2人が盟友であることがわかる絶妙な演技を見せてくれる。
本作で綾野が演じる戌亥は脇役だが、要所でウシジマを支えると同時にアウトローの世界に生きる者の厳しさと滑稽さをその演技で表現し、物語に彩りを添えていることは間違いないだろう。
本作では戌亥のほか、ウシジマの右腕とも言える柄崎(やべきょうすけ)、またウシジマとの因縁を持つ犀原茜(高橋メアリージュン)らの過去も描かれる。絶大な人気を誇る「闇金ウシジマくん」の最終章を、綾野剛、また、山田孝之らの演技とともに、ぜひ最後まで楽しんでほしい。
文=堀慎二郎
放送情報
闇金ウシジマくん ザ・ファイナル
放送日時:2023年8月6日(日)22:00~
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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