戦時色が強かった昭和15年を背景に、上演の決定権を持つ検閲係・向坂睦男(内野)と劇団座付作家・椿一(瀬戸)の7日間にわたるバトルを描いた本作。「この非常時に喜劇などとんでもない」と思っている男と、笑いに命を賭け、「なんとか上演にこぎつけたい」と思っている作家が取調室で繰り広げる2人きりの濃密なやりとりにどんどん引き込まれていく。上演中止に追い込もうと、これでもかとばかりにダメ出しをするのが、内野演じる笑いを全く理解しない検閲係の向坂である。
三谷が本作の物語を思いつくヒントになったのは、テレビドラマの脚本を書き始めた頃に無理難題を要求してくるプロデューサーとのせめぎ合いがきっかけだったという。重厚感を醸し出している内野の役は、現代でいうとプロデューサー、そして度重なる書き直しにめげずに奮起する瀬戸の役には、当時の三谷自身の姿が反映されているのかもしれない。
■やりとりの中で変貌していく2人の関係性
執拗に書き直しを命じる向坂の目的は喜劇を上演させないことなのだが、椿が書き直して持ってくるたびに脚本が面白くなっていくところが、本作のおかしみに繋がっている。心から笑ったことがない人生を送ってきた向坂が、期せずして的確な指示を出すようになるのだ。そもそもが真面目な性格ゆえ、椿が持ってくる脚本に全身全霊で向かい合ってしまう人間味溢れる向坂を、内野が魅力的に演じている。
なお、今回の公演で三谷は初めて演出を担当し、エンディングも新しいものに。「内野さんと瀬戸さんが演じることによって、この2人の関係性に前回はなかった疑似親子みたいなものが生まれて、今回の公演の正解に辿り着いた感じはすごくあります」とコメントした。
キャリアを積み、作中で存在感を放つ内野と瀬戸の演技にも着目して見てほしい。
文=山本弘子
放送情報【スカパー!】
三谷幸喜「笑の大学」
放送日時:2023年11月26日(日)15:30~
チャンネル:WOWOWライブ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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