一方の藤岡演じる岡本武蔵は、村の子供たちが群がる柿の木に一太刀を浴びせ、落ちた柿を拾ってかぶりつくという豪快っぷり。しかし手合わせを挑んできた相手を斬り伏せる藤岡の眼光は、一瞬ながらも強烈な鋭さで見る者の目を奪い、ただ者ではないという緊張感を抱かせる。
ひたすら勢いがよく荒くれ者で、身のほども知らず天下の道場に乗り込んでいく岡本武蔵。押しの強さにこちらが萎縮してしまうほどだが、この荒々しい威圧感を颯爽とまとえるのは藤岡をおいて他にいないだろう。
また印象的なのは、藤岡演じる岡本武蔵の未熟さだ。彼は佐々木小次郎からの戒めで自らのおごりを打ち砕かれ、土下座して小次郎に教えを請い、己の弱さを克服すべく無茶な修行に精を出す。行動の一つひとつがどれも極端だが、藤岡がフルスロットルで繰り出す豪快さと未熟さのすべてが岡本武蔵という剣士の熱き生きざまとなり、それがドラマの根幹を成しているといえよう。
ドラマのもう一つの柱が江守演じる平田武蔵だ。荒くれ者の岡本武蔵とは正反対で、冷静沈着・文武両道を体現する人物として描かれる。平田武蔵は心の機微に焦点の当たる場面が多く、"動"の演技中心の藤岡と対比されることで、江守の滋味深い演技がより色濃く味わえるようになっている。暗闇で揺れるロウソクの光のような武士の心、そのあわいを緻密に描き出す江守の演技も必見だ。
同名である2人の剣士がやがて絡み合っていくストーリーの妙や、2人の前に立ちはだかる強者たちとの果たし合いなど、見応えは十分。80年代の時代劇ながら、不思議と新たな風を感じさせる一作だ。
文=本永真里奈
放送情報【スカパー!】
二人の武蔵(主演:藤岡弘)
放送日時:2月23日(金・祝)02:10~ほか
放送チャンネル:時代劇専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら