安田成美が多様な表現で作り出した緒形拳に匹敵する存在感に注目

安田成美が出演したホラー・コメディ映画「咬みつきたい」
安田成美が出演したホラー・コメディ映画「咬みつきたい」

(C)1991 キャストス/東宝

安田は、主人公の石川周太郎がドラキュラになるきっかけを作ってしまった女性・ゆづ子を演じているのだが、芝居で一つの役の多面性を表現して、ゆづ子の人間としての厚みを表している。最初は、理知的でクール、プライドが高く、サバサバとした美人といった研究者のゆづ子として登場。はきはきと端的に言葉少なくしっかりと伝える台詞回しや、背筋を伸ばしてキビキビと姿勢よく歩く歩き方、目標に向かって猪突猛進に突き進む意志の強さと眼光の輝き、そして研究第一であるが故に人の気持ちを考えないデリカシーを欠いた言動など、さまざまな角度から研究者然としたゆづ子の人となりを構築している。

その後、安田は、ドラキュラとして蘇った周太郎を匿い、共に時間を過ごすゆづ子を通して、次第に垣間見えていく人間味を繊細に表現していく。夢だったドラキュラが目の前に存在するという事実に興奮しているゆづ子、ドラキュラの研究と称して周太郎と接触するうちに周太郎に惹かれていくゆづ子、周太郎に幼い頃の夢を語りながら少女に戻ったかのようなゆづ子、復讐を果たして身の潔白を証明するために奮闘する周太郎を身を挺して後押しするゆづ子など、シーンごとに見せる表情を変えて、ゆづ子をお堅い"リケジョ"なイメージから人間味あふれる女性に変容させていく。主人公はあくまで周太郎で、周太郎の心情や苦悩し戸惑い奮闘する姿が物語の主軸となるため、緒形の渋く説得力がありながらもどこかおかしみを含んだ演技に目を引かれる中、安田はゆづ子を1人の女性としてしっかりと演じ切ることで作品の中でのゆづ子の存在感を増している。この安田が表現するゆづ子の人間味こそが、ドラキュラの周太郎の"人間らしくなさ"との対比を作り出しており、作品をより面白く深みのあるものに昇華させている。

(C)1991 キャストス/東宝

金子監督が描くドラキュラになってしまった男の奮闘劇と緒方の独特の演技を楽しみつつ、それらを引き立たせる存在感を表現した演技でヒロインを演じ切った安田の多様な表現にも注目してほしい。

文=原田健

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放送情報

咬みつきたい
放送日時:2024年3月15日(金)8:15~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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