渥美清浅丘ルリ子が「寅さん」シリーズ屈指の人気作で紡ぐ、切ない大人の恋物語

(C)1980松竹株式会社

「とらや」での家族とのやり取りや、寅さんのすぐに他人と仲良くなるコミュ力の高さ、寅さんの子供っぽくて勝手でわがままなところ、それを疎ましく思いながらもつい世話を焼いてしまう周りの人々との交流など、シリーズに共通して描かれる「男はつらいよ」の醍醐味もさることながら、同作では寅次郎とリリーの心を通わせていく姿が一番の見どころといえる。

互いを思いやって手に手を取って支え合う幸せな時間と共に、ちょっとしたボタンの掛け違いから気持ちがすれ違い、プライドが邪魔をして本音が言えないまま衝突してしまう場面など、直接的な言葉を使わず、台詞と一緒に表現される言葉の裏にある本心を巧みに描きながらシーンを重ねていく脚本と演出はさすがで、それをしっかりと映像に落とし込む渥美と浅丘の演技がすばらしい。

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シリーズ3度目の共演ということもあり、2人が織り成す寅次郎とリリーの距離感が絶妙。結婚秒読みの恋人のような瞬間もあれば、共に相手の本心を探るあまり自分からは関係を進ませる一歩が踏み出せない不器用さ、"夫婦ではない"という関係が故に本音をぶつけられないもどかしさなど、互いのプライドや体裁が邪魔をして素直になれないという大人ならでは恋模様を繊細に描き出しており、観る者に「なんで今そういうことを言うの?」「素直になれ!」「今、踏み込め!」などとつい言いたくなるような没入感を抱かせる。本音とは裏腹な言葉を発してしまうところからすれ違っていく様を、相手には感じさせないようにしながら観客には伝えていくという高度で繊細な芝居で展開していく姿は、「これぞ役者!」と思わず手を叩きたくなるほどで、観賞しながらどちらにも感情移入してしまう不思議な吸引力を発している。

体裁を取り繕いながらも状況が悪化してしまい、結局はタイミングが合わずに結ばれないという切ない恋物語の中で、一見すると大味な演技の裏に隠された本音を繊細に描き出す2人の掛け合いに心を震わせられてみてはいかがだろうか。

文=原田健

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放送情報

男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花
放送日時:2024年3月18日(月)18:30~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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