登場人物それぞれが心に深い傷を負っており、その複雑な感情を実力派俳優たちが見事に表現。少女漫画原作という枠に収まらない、切なくも美しいラブストーリーに仕上がっている。まず、藤ヶ谷演じる零のカッコ良さ。キラといるときの甘く優しい表情と声、茶目っ気たっぷりな愛らしさに真剣な表情とのギャップ...と、ファンならずともときめいてしまうことだろう。もちろん、不意の顎くい、頭ポンポンなどの胸キュン要素も随所に散りばめられている。さらには、ケンカのシーンで見せる怒りの表情も秀逸。人を寄せ付けない冷たい目と、絶対的な強さが伝わってくるアクションは、牧生が憧れるのも納得。まさに"美しい狂気"そのものだ。何よりも印象的だったのは、零の持つ繊細さと寂しさが垣間見えるシーン。キラの過去を知り、自分にはキラと一緒にいる資格がないと本音を吐露するときに見せる表情がなんとも儚く、涙を流しながらキラを思う藤ヶ谷の名演は胸にぐっと迫るものがあった。
一方の窪田は、穏やかで優しい仮面の下に狂気を隠した牧生という難しい役どころを怪演。ストーリーの鍵を握る牧生の零への狂おしいほどに切ない感情を変幻自在の芝居で表現し、スクリーンの中でひときわ強烈な存在感を放っていた。窪田が登場するだけで、ビシッと物語が締まるのだ。窪田がつくりあげた牧生は、物語序盤から透明感とミステリアスさが同居した不思議な吸引力を持っており、そんな彼の魅力に抗うことは不可避。気付いたら、心を奪われていた。そして、初めて彼の狂気に触れる、美術室でのキラに詰め寄るシーン。柔らかかった表情は温度のないものに変わり、彼の瞳も声も、全部これまでの牧生とはまるで違う人物のようにさえ感じて、言葉で語らずとも、彼の全てからあふれ出す、得体の知れない恐ろしさにゾクリとさせられた。しかし、これはまだまだ序章に過ぎない。ネタバレになってしまうため、多くは語れないのが残念だが、窪田の演技力に最後まで圧倒されっ放し。俳優・窪田正孝の底なしの表現力に、ただただ感服したことだけはここに記しておきたい。
実力派俳優たちが紡ぐ、衝撃のラブストーリー。それぞれの愛の結末を、その目で確かめてもらいたい。
文=鳥取えり
放送情報【スカパー!】
劇場版 MARS~ただ、君を愛してる~
放送日時:5月25日(土)18:15~
放送チャンネル:WOWOWライブ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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