今年3月、公開10周年とドラマ化を記念してリバイバル上映された映画「舟を編む」(2013年)。本屋大賞を受賞した三浦しをんの同名小説を映像化した同作は、アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品として選出されたほか、日本アカデミー賞では作品賞や監督賞など6部門で最優秀賞に輝いた。
日本アカデミー賞史上最年少となる当時30歳での監督賞受賞となった監督・石井裕也は、以降も精力的に見応えのある映画を世に送り出し、商業映画デビュー作「川の底からこんにちは」(2009年)をはじめ「茜色に焼かれる」(2021年)、「月」(2023年)など幅広いフィルモグラフィで知られている。そんな石井監督がオリジナル脚本で挑んだ作品が「愛にイナズマ」(2023年)だ。
「愛にイナズマ」は今の社会を予見したかのようなアフターコロナの現代を舞台に、ポップかつハッピーなタッチで描かれるコメディ。幼い頃からの夢だった監督デビューを目前に控えた26歳の折村花子は、家賃を滞納して強制退去寸前で、彼女の若い感性をバカにするベテラン助監督とは対立し、露骨なセクハラを受けて怒り心頭だ。さらに卑劣で無責任なプロデューサーに騙され、監督を降ろされてしまう。
ギャラももらえず、大切な企画も奪われ、すべてを失った花子。しかし、バーで運命的に出会った恋人・舘正夫に励まされ、反撃を決意する。自分にしか作れない映画を撮るため、10年以上も音信不通だった家族と再会することに...。愛と希望とユーモアに満ちた痛快なストーリーが展開する本作には演技巧者たちが集結し、彼らが繰り広げるハイレベルな演技合戦も大きな見どころだ。
プロデューサーの裏切りで企画もチャンスも奪われた主人公の花子を演じたのは松岡茉優。幼い頃に母が消え、理由も分からないままに世界が一変したかのような思いを経験した花子は、母や家族を描く映画を作ろうとする。しかし、今度は叶う直前で映画監督になる夢を奪われてしまう。舐められたままで終われるかと、社会の理不尽さに立ち向かうことを決意。10年ぶりに再会したどうしようもない家族の力を借りて反撃に転じる。
繊細な感性で現実を真っ直ぐに見つめ、傷ついても戦うことをやめない。懸命に生きる花子が松岡と重なる。実力派で知られる松岡が、花子の戸惑いや怒り、ほとばしる情熱も確かに表現。社会に抑圧されてきた感情や不器用な花子の人となりそのものを、全身全霊で体現している。心の内から溢れ出る嘘のない言葉が、自然とセリフになって花子の人生を生きていた。
放送情報【スカパー!】
愛にイナズマ
放送日時:2024年6月30日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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