松たか子の美声に癒される、役所広司主演、三谷幸喜脚本・監督のコメディ映画「THE 有頂天ホテル」

ホテルアバンティには、新堂同様に自分を偽ったり、自分から逃げたりしている人が他にもいた。本当は諦めたくないのに、歌手になる夢を捨て田舎に帰ろうとしているベルボーイの只野憲二(香取慎吾)。裏金事件の責任を1人で負わされ、マスコミから逃げている国会議員の武藤田勝利(佐藤浩市)。そして、その武藤田の元愛人で現在は宿泊係だが、宿泊客の宝石や毛皮をちょっと拝借したことで、とある大金持ちの愛人と勘違いされてしまったシングルマザーの竹本ハナ(松たか子)もその一人だ。彼らはいろいろうまくいかず、人生に迷っていたが、カウントダウンを目前にした2時間の間にさまざまな偶然と奇跡に遭遇し、それぞれに自分の道を見つけていくことになる。

そのなかで自分の道だけでなく、他者の道にも大きな影響を与えるのが、ハナだ。彼女は登場時点からずっとイライラしていた。母親に預けている幼い息子が夜10時を過ぎているにもかかわらず、まだ寝ていなかったからだ。以来、彼女はことあるごとに声を荒らげる。例えば、"グレムリンの襲撃"を受けたかのごとく散らかっている部屋のメークアップをしている際には、「濡れたタオルをソファーに置くな!」とホテルマンの全客室係が賛同しそうな啖呵を切る。

■松たか子の心地のよい美声が、厳しい言葉も美しく響かせる

その後、突然、部屋を訪ねてきた男に父親の愛人と勘違いされたことで、さらに怒り心頭状態に。かつて武藤田の愛人だった頃のことを思い出し、見ず知らずの若い愛人をかばうように言い合いをするのだ。そんなときでも、嫌な感じがしないのは松の声質のせいだろう。今回演じる竹本ハナの声はハリはあるがやわらかく、耳心地が良い。そのため、説教をしていても、説教くさくなく、どこか癒されるのだ。

その際たるものが、急遽記者会見を開こうとする武藤田にカツを入れるシーンだ。これまではイライラした表情を見せていたが、腹を括ったハナは聖母のごとく包み込むように、しかし厳しく、「かっこ悪くてもいいじゃない。(中略)あなたは自分の思う通りに生きるの!」と言い放つ。この言葉は武藤田に向けられたものだが、松の声質も手伝って、作品のなかで迷っている全ての人の心を解放し、癒すセリフになっているように感じる。

主要キャスト23人による9つのストーリーが交差し、それぞれに奇跡が起きるが、最後にみんながありのままの笑顔でカウントダウンパーティーを迎えられるのは、あのハナによるカツと松の芝居あってこそだろう。ぜひとも確認してほしい。

文=及川静

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放送情報【スカパー!】

THE有頂天ホテル
放送日時:9月8日(日)16:00~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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