旧知の人物で、みんなから慕われていた梶川の死に瀕し、懸命に動く光彦の真摯な姿。自分が動いたことで第2の犠牲者が生まれてしまった責任を痛感し、苦悩する様子など、速水が演じる光彦は、控え目で責任感が強く好感が持てる。歴代の光彦役は、スマートで理知的なカッコよさを感じさせたが、速水が演じる光彦はむしろ自信なさげで、腰が低い印象だ。速水が演じるなら、もっとスマートな人物像にもなりそうだが、そんな意外性が非常にいい。
冴子の過去が明らかになる後半では、意外な人物が浮かび上がって物語は一気に動き出す。前半の緩やかな展開から一転し、後半のテンポアップが心地良く、浅見光彦シリーズらしい切ない人間ドラマがラストに待ち受ける。
事件を解決しても光彦の心は晴れないが、そんな心情を速水が丁寧に演じている。事件の核となる女性・冴子役の三浦理恵子も好演。元気で明るい女性を演じさせればピカイチだが、このような健気な役柄も似合っていた。故人となってしまった山本圭、綿引勝彦の元気な姿が見られるのもうれしい。出番は多くないが、コメディリリーフ的に登場する京都府警捜査一課の大山警部を演じる、東貴博の絵に描いたような軽薄さも笑える。不可解な事件と共にやりきれない悲劇のてん末を描く、浅見光彦シリーズ「蜃気楼」。速水版の本シリーズは全4作だが、もう少し続編を見てみたかったと思わせる力作だ。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
浅見光彦シリーズ「蜃気楼」(速水もこみち主演)
放送日時: 9月2日(月)12:00~
チャンネル: TBSチャンネル1 最新ドラマ・音楽・映画
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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