この作品で新垣は人見知りな小説家の槙生を熱演し、今まで見せたことのない一面を披露している。槙生は朝の母である姉・実里(中村優子)と疎遠で、姉妹の関係性は破綻していた。そのためか姉の死を知っても悲しみに囚われることがなく、どこか人間味に欠けたところがある。また、極度の人見知りで不器用、片付けや料理もできず、家ではボサボサ頭で眼鏡といういで立ちで、クリエイターとしては素晴らしいが"人間的には難あり"という人物で、勢いでスタートした朝との暮らしも困惑しながら過ごしていくのだが、"人間的に難あり"な槙生を新垣は見事に血の通った人間として表現している。
これまで新垣が演じてきたたくさんの役の中には、槙生のように気難しい役や感情の起伏が少ない役などもあったが、そのどれにも"愛らしさ"や"可愛らしさ"があった。しかし、今回の槙生に関しては、どこか"おじさん臭"すら漂ってきそうな"可愛らしさ"を封印した役作りを披露。ぶっきらぼうで冷たく感じる突き放すような言い回しと態度など、今まで観る者を味方につけるような演技を披露してきた新垣としては、真逆の表現にチャレンジしているといえる。だが、そのチャレンジは、ピュアで素直で繊細な年ごろの朝とのギャップを生み出し、W主演を務める早瀬の演技をサポートする役目も果たしている。
中でも、それが顕著に表れているのが、槙生のセリフ回しだ。小説家という役柄もあり、「私は決してあなたを踏みにじらない」「たらい回しはなしだ」「柔らかな年頃。きっと私のうかつな一言で人生が変わってしまう」「まだ子供だからって、何でも無邪気に聞いていいわけじゃない」といった独特な言い回しが多い。
2次元の創作物を3次元化する場合、"2次元では違和感がないが3次元だと非日常に感じられること"をどう乗り越えるかが付いて回る課題だが、"表現を変える"、"カットする"などの方法がある中で、今作の場合は新垣の演技力で乗り越えている。粒立てて取り上げると、現実では聴きなじみのない言い回しを、新垣の役作りが説得力となって違和感を緩和しているのだ。
これまでの新垣の演技にはなかった役者としての新境地を、彼女が作り上げた槙生という役から感じてみてほしい。
文=原田健
放送情報【スカパー!】
違国日記
放送日時:2024年11月17日(日)21:00~ほか
チャンネル:日本映画専門チャンネル
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