1992年に公開された映画「地獄の警備員」をご存じだろうか。一般的に有名な作品とは言えないが、バイオレンスホラーの傑作として一部の映画ファンの間では有名だ。2020年公開の「スパイの妻 劇場版」で第77回ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した黒沢清が監督を務めた、1980年代に名を馳せた伝説的映画製作会社、ディレクターズ・カンパニー最後の作品である。
ジャンルは「バイオレンスホラー」と分類すべきか、タイトルにある警備員を演じる松重豊の怪演と、「恐怖」を描かせたら天下一品の黒沢清監督。低予算作品ながらも、そんな2人の無名時代の萌芽を感じさせる出来栄えだ。
物語は、バブル景気で急成長を遂げた総合商社を舞台に、絵画取引担当として成島秋子(久野真紀子/現・クノ真季子)が入社する場面で幕を開ける。彼女と同時に新人警備員として富士丸(松重豊)という男も入社していた。じつはこの男元力士で、かつて兄弟子とその愛人を殺害したものの、精神鑑定の結果無になったという危険人物だった。秋子が慣れない仕事に追われる一方、警備室では富士丸による目を覆うほどの惨劇が幕を開けていた...。
本作の魅力は、まずは黒沢監督による恐怖の演出ぶり。97年公開の映画「CURE」で世界的に注目される彼の手腕が、この頃既に存分に発揮されている。展開の見せ方も秀逸で、殺人鬼の富士丸が静かに動き始めてからは舞台を限定。取り残された登場人物たちが恐怖に慄くという演出は、視聴者の恐怖感を大いに煽る。「次に何が起こるのか」を予感しながら、画面に強く引き付けられる演出は見事で、本当に恐ろしい。巨体の富士丸が怪力の持ち主で、凄惨な殺し方をするのだが、殺戮場面を直接的に表現せずに凄惨さを感じさせる描き方にも工夫が見られる。
放送情報【スカパー!】
地獄の警備員 デジタルリマスター版
放送日時:12月22日(日)21:00~
※22日(日)、26日(木)放送回は、本編前後に松重豊がゲスト出演
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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