中でも、西田による金田一耕助は、自身の地毛を活かした豊かなもみあげが印象的なボサボサ頭に年季の入った着物を纏ったスタイル。知性や気品が隠しきれない石坂や、どこか大人の男の色気が漂う古谷とはまたひと味違う、親しみやすい雰囲気が大きな魅力だった。
西田が金田一を演じた映画「悪魔が来りて笛を吹く」は、昭和22年、銀座の宝石店で青酸カリを用いた強盗殺人事件が物語の発端となる。事件の有力容疑者と目された元子爵の椿英輔(仲谷昇)は、遺書を書き残して失踪。やがて英輔とおぼしき死体が見つかる。しかし、英輔の死に確証が持てず、不安と恐怖におののく椿家の面々は、屋敷で英輔の生死を占う儀式を執り行うが、そんな中で椿家の親族が密室で変死体となって発見される。儀式に立ち会った探偵の金田一耕助は真相を究明すべく、英輔が失踪直前に向かった須磨を訪れるが...。
金田一が警察署で、椿子爵がフルートを演奏するレコード「悪魔が来りて笛を吹く」を聴いているという西田の初登場シーンでは、もの悲しいフルートの音に聞き入っている金田一の目の前に、等々力(夏木勲 ※現:夏八木勲)が手をかざして注意を惹くといったコミカルなやり取りが展開される。その後、椿邸で子爵の娘・美禰子(斉藤とも子)と対面した金田一だったが、その美しさに圧倒され、自分の身なりがみすぼらしいと感じたのかとっさに首元を帽子で隠し、その後、マフラーを巻き直す。そして、美禰子の母(鰐淵晴子)を紹介された際には、そのゴージャスな美貌に見入って部屋の鴨居に頭をぶつけるといった仕草を見せる。このような人間臭さを感じる細やかな演技を積み重ねて、西田は観る者に「今までの金田一耕助とはちょっと違うな」「この金田一耕助にはなんだか親近感が沸く」という想いを確かに抱かせることに成功しているのだ。
その後も、食事のシーンで帽子をどこに置いていいかわからず投げ飛ばしたり、その帽子をどこにやったのかを忘れて屋敷内を探しまくったりと、軽妙な演技で自身の持ち味を最大限に発揮し、新たな金田一耕助を作り出した西田。普段の親しみやすい雰囲気と、推理モードに入った際のきりっとした鋭い表情のギャップは、西田の演技の真骨頂と言えるだろう。
その後、西田が演じた金田一以降も、チューリップハットを導入した野生味溢れる鹿賀丈史や、爽やかさが滲み出る好感度抜群な金田一を演じた上川隆也など、映画やドラマなどでさまざまな役者陣が演じるたびに、違う魅力を放つキャラクターとして誕生し続ける金田一耕助。2019年放送のドラマ「悪魔の手毬唄~金田一耕助、ふたたび~」では加藤シゲアキが、2022年にはオムニバスドラマ「シリーズ横溝正史短編集Ⅲ 池松壮亮×金田一耕助3」で池松壮亮が令和時代の空気感を反映させるなど、まだまだ進化を止めない、日本を代表する名探偵キャラ。その変遷と魅力をぜひ、この機会に確かめて見てほしい。
文=中村実香
放送情報【スカパー!】
名探偵・金田一耕助大集合
犬神家の一族(1976) ※石坂浩二主演
放送日時:2024年12月1日(日)9:00~
八つ墓村(1977) ※渥美清出演
放送日時:放送日時:2024年12月1日(日)11:30~
悪魔が来りて笛を吹く(1979) ※西田敏行主演
放送日時:2024年12月1日(日)14:15~
悪霊島(1981) ※鹿賀丈史主演
放送日時:2024年12月1日(日)16:45~
横溝正史シリーズ 犬神家の一族(全5話) ※古谷一行主演
放送日時:2024年12月8日(日)9:00~
金田一耕助ファイル 迷路荘の惨劇 ※上川隆也主演
放送日時:2024年12月8日(日)13:20~
金田一耕助ファイルII 獄門島 ※上川隆也主演
放送日時:2024年12月8日(日)15:30~
チャンネル:WOWOWプラス
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