2012年公開の映画「のぼうの城」は、戦国日本を舞台にした痛快な合戦絵巻。史実をもとに、「20,000人 VS 500人」の籠城戦を描いた。「のぼう様」と笑われながら、大軍を翻弄する主人公・成田長親を演じたのが野村萬斎だ。長親の"バカ殿"ぶりとその後に見せる将としての器量を、野村はたっぷりと演じて見せた。
時は天正18年。天下統一に邁進する関白の豊臣秀吉(市村正親)は、小田原の北条氏を征伐せんとする。武蔵国にある北条氏配下の「忍城」には、石田三成(上地雄輔)が軍勢を率いて降伏を迫る。忍城は、周囲を湖に囲まれた砦のような小城にすぎない。野村の長親は、不器用でろくに馬にも乗れないで領民にも笑われる。「でくのぼう」から親しみを込めて「のぼう様」と呼ばれる。
そもそもこの「のぼう様」は城主ですらない。当主は従兄弟の氏長(西村雅彦)で、城代として実質的に城をとりしきるのは長親の父の泰季(平泉成)。実権も持たない長親は、序盤の緊迫する成田家家中のシーンでは、存在感もほとんどない。むしろ氏長、泰季、家臣の正木丹波守利英(佐藤浩市)、酒巻靱負(成宮寛貴)らの方が目立っているが、泰季が病に倒れたことで長親が大将となったのだった。
それでも野村扮するのぼう様の度胸がうかがい知れるワンシーンがある。降伏に傾く城内で、のんきに酒を飲んでいた長親が敵の陣太鼓の音に一瞬、何か考えているような表情をする。が、櫓にのぼって敵の大規模なかがり火を目にすると呆とした「のぼう様」の顔になってしまうところが面白い。
見ていて溜飲が下がる最初の場面は、石田軍の長束正家(平岳大)からの事実上の降伏勧告を拒絶するところ。その場にいた誰もが降伏を予想していたところに「戦いまする!」と啖呵を切って正家に迫る長親。野村が狂言で培ってきた見得とケレン味がたっぷりのシーンで、驚愕した家臣も巻き込んでしまう。長親のただものでないところは、野村でないと体現できないだろう。それは領民との関係においても同じで、氏長や泰季が総大将だったら、この後の石田軍との合戦で一体となって抵抗できただろうか?と陣羽織を着た「のぼう様」が領民に泣いて許しを乞うところを見ていて思う。亡くなった泰季の遺言に反して自分の一存で戦うことを決めたと、泣いて領民と泣き泰季に詫びる長親。弱いところもさらけだせる長親だからこそ、領民と一体になって大軍に抵抗できるのだ(もしかするとこれすら長親の『芝居』で、領民を味方につけられる打算があったのでは?と野村の飄々としたたずまいを見ると思えてくる)。
放送情報【スカパー!】
のぼうの城
放送日時:2024年12月27日(金) 14:00~ほか
放送チャンネル:WOWOWプラス
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