■演技を感じさせない松坂桃李の芝居力

中でも、主人公の松坂桃李の演技は秀逸だ。旅人はある事件をキッカケに、視覚以外のすべての感覚を失っているため、優しい物腰とは裏腹にどこか影があるミステリアスな存在。そこはかとない空虚感が漂っていて、"生"を感じさせない。明かされていない謎も多く、罪を犯した人物と対峙した際には、狂気じみた一面を見せることも。さらに、目の力を使う際に、水色に発光する瞳は神秘的で、その美しさに見とれてしまうほど。言うなれば、旅人とは、現実に存在し得ないファンタジー要素の多いキャラクターなのだ。しかし、松坂が演じると、旅人はファンタジーの存在ではなく、途端にリアルへと変わる。松坂の細やかで丁寧な感情表現が、旅人がまるでそこに自然と存在しているかのようなリアリティーを持つから面白い。演技を感じさせない「演技」こそが、松坂のすごさなのだろう。それでいて、彼が画面に登場するだけで、ガラリと作品の空気が変わるのも興味深い。本作でも、例えコメディタッチな緩いシーンであっても、松坂が画面に映ると、途端に空気が引き締まる。それはきっと、彼の存在感自体に大きな説得力があるからこそ、なのだろう。当時まだ20代ながら、現在の活躍を予感させる類い希なる芝居力を存分に発揮していた松坂。その実力は、是非本作で堪能してほしい。
そして、本ドラマの翌年には、2018年に公開された映画「孤狼の血」で第42回日本アカデミー賞 最優秀助演男優賞、2019年公開の映画「新聞記者」で第43回日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞を受賞するなど、日本を代表する俳優となった松坂。30代も中盤を迎え円熟味を増した彼が、これからどんな芝居でわれわれを魅了してくれるのか、楽しみで仕方ない。
文=鳥取えり
放送情報【スカパー!】
視覚探偵 日暮旅人
放送日時:3月23日(日)11:20~
放送チャンネル:ファミリー劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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