黒川想矢が演じる湊は、父親亡き後、クリーニング屋で働く母親と２人暮らし。小学校では活動的な方ではないが、大人びていて、一目置かれる存在だ。一方、同じクラスの星川依里(柊木陽太)は、乱暴な男子たちからいじめのターゲットにされている。実は湊と依里は放課後、一緒に遊ぶ関係で、２人だけが知る秘密基地で時間を共有していた。

早織は湊がクラス担任である保利(永山瑛太)から暴力を振るわれているのではと疑い、小学校の校長(田中裕子)に問いただす。校長たちの対応はマニュアルどおりの形式的なもので、早織は学校への不信を募らせていく。

黒川想矢は、ラグビー選手だった父親のようにはなれないという将来への不安とセクシャリティについての悩みを抱える湊を繊細に演じている。母親が運転する車から飛び降りるなど、突飛な行動を取ることもある湊は危うさや、もろさを抱えている。依里の方が、学校ではいじめられ、家庭にも問題はあるが、自分は変わらないという信念を持っているように見える。湊は心の揺らぎがある分、演じるのは難しかったはずだ。黒川は完成した映画を見て「(自分が現場で)何も考えていなかったと思って、ちょっとショックだった」と振り返っているが、そこは是枝マジックで、坂元裕二の脚本が目指すところに到達している。

この映画で注目され、黒川は人気漫画をドラマ化した『からかい上手の高木さん』では月島琉衣とダブル主演を務め、『怪物』の無口な湊とは真逆で、高木さんとも心の声でもよくしゃべる「西片くん」を演じ、コメディセンスも発揮した。

現在15歳。2025年もドラマ『秘密〜THE TOP SECRET〜』第1話に出演し、2024年にはヒットコミックを実写化したドラマ『【推しの子】』、映画『【推しの子】-The Final Act-』ではキーパーソンであるカミキヒカルの少年時代を演じた。ちなみに大人になったカミキヒカル役は二宮和也で、黒川のInstagramでは二宮とのツーショットもアップされている。

6月6日(金)公開の映画『国宝』も話題になりそうだ。黒川は、吉沢亮演じる歌舞伎役者・立花喜久雄の少年時代を演じている。喜久雄は「稀代の女方(きだいのおんながた)」と呼ばれることになる天才で、15歳のとき、父親を殺されてしまう。「絶対に少年喜久雄をやりたいと思った」という黒川が、歌舞伎の指導を受けて、どんな表現を見せてくれるか楽しみだ。

文＝小田慶子