
ある意味で、非常に実験的な作品だ。まず平山を演じられる人間は限られている。話さず、ほぼ変化がないと思われる日常のなかでも、変化していることを、あざとい表現でなく伝えることができる技術が要求される。ヴェンダース監督が、役所の俳優としての実力に全幅の信頼を置いているからこそできる演出と言えるだろう。
前半から中盤まで、とにかく丁寧に平山の日常を追うことで、後半のちょっとしたドラマチックな展開がより心に沁みる。それは平山が、存在が気になって通う居酒屋のママ(石川さゆり)の元夫・友山(三浦友和)と対峙するシーン。友山はある秘密を抱えているが、平山は友山と言葉を交わすことで、自分のなかにあるさまざまな感情に気づく。そして「何も変わらないなんて、そんな馬鹿な話ないですよ」と思いを吐露する。

そしてラスト。仕事場に向かう車のなかで、平山を正面からアップで映し出すシーンだ。かなりの長回しのなか、役所は朝焼けに向かって笑顔を見せる。その笑顔は生きることの喜び、悲しみ、苦しさ、希望というどんな解釈でも出来る表情だ。約2時間にわたって平山と共に過ごしてきた視聴者が、最後平山の笑顔からどんな感情を受け取るのか―。最後まで役所劇場を堪能できる圧倒的な映画だ。
文=磯部正和
放送情報【スカパー!】
PERFECT DAYS
放送日時:4月6日(日)21:00~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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