大学受験に失敗し、彼女にも振られ、人生やる気なしの勇気がたまたま手にしたのが、表紙に美女・直紀が写っている「緑の研修生」のパンフレットだった。「この人に会える！」と勇気はハンバーガー片手にのんきに電車に乗り込んだものの、着いた場所は携帯電話の電波が圏外になるほどの山奥。研修生たちと授業を受けるものの、道具の使い方を教わる訓練でガムをかんでいた勇気は、次世代の林業を担うエース・飯田ヨキ(伊藤)に髪をつかまれ、ブチ切れられる。

そんな勇気が荷物をまとめてさっさと逃亡しようとした時に目の前に現れたのが、バイクに乗った直紀だった。ついに会えたパンフレットの美女だったが、直紀は勇気のチャラ男ぶりを指摘し、「興味本位で来たんやったら、さっさとやめてくれへん？」とバッサリ言い放つ。しかしながら、勇気は脱落者続出の研修期間をクリアし、よりによって地元一の山猿のような野性児・ヨキが所属する「中村林業」に引き取られ、1年間の見習い訓練を積むことになる...。

■裏表のない性格と飾らない笑顔で魅了するヒロインを演じた長澤まさみ

朝はヨキに枕を蹴られて起こされ、親方(光石)たちと山に入ればヒルに襲われ、タフでなくては生きていけない林業ライフに半泣きになる勇気。

しかし、先輩たちに見守られながら初めてチェーンソーを使って木を伐採したり、高所に登って枝打ちをしたりするうちに林業のやりがいを感じ、頬を緩ませるようになる。そんな勇気を演じる染谷の"脱力系"ともいえるおかしみがある演技も素晴らしい。

そして、愛する地元で学校の先生として生きることを選んだ直紀を演じた長澤の表情や佇まいには、土の香りがするようなリアリティーがある。特に印象的なのは、クライマックスでの村に代々伝わる祭りのシーン。ふんどし姿で火を片手に山を登っていく男たち。その列に出遅れてしまった勇気を加わらせるために「後ろに乗れ」とばかりにバイクにチラッと視線をやり、疾走する姿が男前だ。

空に向かってまっすぐに伸びる木々の匂いまで伝わってきそうな美しい映像と共に、主演の染谷、ヒロインを演じた長澤の自然体の演技がたっぷり楽しめる作品だ。

文＝山本弘子