父の執念を滲ませる田村正和の名演が絶品!松本清張ミステリーの傑作「十万分の一の偶然」

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⒞東映

物語は、モンゴルで取材中のルポライター・山内正平(田村)に、一人娘・明子(中谷美紀)の婚約者・塚本暁(小泉孝太郎)から明子が事故死したという悲報が届く場面で幕を開ける。明子は入院中の叔母・恵子(岸本加世子)を見舞うために沼津へ向かう途中、東名高速道路の玉突き事故に巻き込まれて死亡したという。

帰国の途に就いた正平は、機内で隣席の男性から、娘の事故現場を撮影した写真が掲載された雑誌を見せられる。大炎上する凄惨な現場を写したその1枚には、「激突」というタイトルが付けられていた。山鹿恭一(高嶋政伸(※「高」は正しくは「はしご高」)は~)というアマチュアカメラマンが撮影したもので、「ニュース写真年間最優秀賞」を受賞したという。山鹿は、夜景を撮影するために出掛け、偶然に事故を目撃して本能的に撮ったらしい。受賞に際して、写真評論家の大家・古家庫之助(伊東四朗)が「十万分の一の偶然」と大絶賛していた。じつは正平は古家と因縁があり、渾身のルポを古家の横やりでボツにされた過去があった。山鹿の授賞式に潜り込んだ正平は、記者会見で、週刊誌の編集者・小泉恵美子(松下由樹)が山鹿に投げかけた質問に関心を持つ。小泉によれば、事故の生存者が直前に「赤い火の玉を見た」と証言したらしい。「火の玉なんて知らない」という山鹿だったが、正平にはその言葉が引っ掛かった。事故原因に大きな疑念を抱いた正平は、愛娘の死の真相を突き止めるべく、自らの足で執念の追跡を始める...。

■田村の迫真の演技により重厚な人間ドラマに仕上がった

本作における田村の演技は、まさにプロフェッショナルそのもの。田村ありきの企画であり、原作の設定を変更したのも田村に合わせたものだと思われるが、結果的にそれが功を奏したと言える。娘への溢れる愛情と真相を追求する信念が滲み出る演技は、抑制しているだけに却って迫力が凄まじい。当時の田村は「この作品は単なる謎解きドラマではなく、亡くなった娘の供養になると信じて"真相"を突き止めていく"父親の執念"を描いている人間ドラマ。オファーをもらい、その徹底した人物描写と物語の構成に面白さを感じた」とコメントしている。

その言葉の通り、田村は「父の執念」を圧巻の演技で表現。重厚な人間ドラマであり、精緻なミステリーにも仕上がっている。特に"赤い火の玉"のトリックを解明するために、旧知のカメラマン・越坂菜月(若村麻由美)に協力を頼み、検証していく場面が印象的だ。若村の颯爽としたカメラマンぶりも絵になっていて、印象的なキャラになっている。共演者では、伊東四朗の悪役ぶりが時代劇の悪代官のようで絶品。一途に父を慕う明子を演じる中谷の演技も見事で、生前に残された父へのビデオメッセージの場面は感涙ものだ。高嶋政伸は抑えた演技だが、難しい役どころを細かい演技でやりきっている。正平の相棒的な立場で、真相を追う小泉記者役の松下も巧みな芝居で安定感がある。"友情出演"とクレジットされた岸本加世子も好演。田村とは、1988年放送の「ニューヨーク恋物語」(フジテレビ系※田村の代表作でありベストワンに挙げる人も多い名作)で恋人役を務めたが、今回の兄妹役も特別な空気感を醸しているのはさすがだ。

松本清張らしい重厚な社会派ミステリーにして、深い人間ドラマとしても見応えのある1作。そんな完成度抜群のドラマ「十万分の一の偶然」。私生活を決して感じさせず、生涯を"プロフェッショナル俳優"として生き抜いた、田村正和の演技の凄みをぜひかみしめてほしい。

文=渡辺敏樹

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放送情報【スカパー!】

ドラマスペシャル 十万分の一の偶然
放送日時:2025年6月14日(土)19:00~
放送チャンネル:テレ朝チャンネル2
※放送スケジュールは変更になる場合があります

詳しくは
こちら

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