過去に様々なキャラクターを演じてきた堂本だが、ここまで受け身の役は初めてだったこともあり、本作の完成報告イベントでは「演じるには非常に難しい役だった」と話していた。荻上監督は堂本に人を惹きつける吸引力があるからこそ成立したと絶大な信頼感を打ち明けているが、アテ書きによって生まれたキャラクターだけに、堂本自身も沢田に共鳴する部分が多かった様子。

自分はどうやって生きていくのかと彷徨う沢田を見ていると、今の堂本にしか演じられない役であり、彼が演じたからこそ人々の心を震わせる役になっていると感じさせられる瞬間ばかり。沢田が涙をあふれさせる場面は、アーティストとして歩んできた堂本自身の魂の叫びのようでもあり、隣人の横山を演じた綾野剛との化学反応を含め、忘れ難い名シーンとなっている。

沢田を取り巻くキャラクターを演じる面々には綾野をはじめ、吉岡里帆、森崎ウィン、柄本明、小林聡美ら豪華キャストが集結。沢田と豊かなやり取りを見せる。また堂本は、".ENDRECHERI."と"堂本剛"のWネームで初の映画音楽にもチャレンジ。普段、制作している音楽とは違う学びがあったという。そしてエンドロールで流れる主題歌「街(movie ver.)」が、ラストの美しい情感を包み込む。

○(まる)の奥を覗き込みながら、堂本の心の中を覗き込んだ気持ちにもなれる本作。人生とはジタバタもがくものだけれど「そのままでいいんだよ」と声をかけてくれるような、優しい1本として完成している。

文＝成田おり枝