伊勢谷友介、松坂桃李、玉山鉄二が絶望と闘い続ける家族の姿を描き出す「ドラマWスペシャル 尾根のかなたに~父と息子の日航機墜落事故~」
俳優

(C)2012 WOWOW INC
伊勢谷が演じる薫は、少年時代は厳格な父に反発し、「歯医者になるくらいなら死んだ方がまし」とまで言い切っていた。しかし、父が近所の店に奉公していた少女に心を砕き、彼女から尊敬されていることを知り、考えを改める。1981年には父と共に歯科医として働くようになった薫は、神戸で自分用に買い求めたイタリア製の革靴を父に譲ることに。その靴を愛用していた父・健造は、1985年8月12日に帰らぬ人となった。
兵庫県歯科医師会に出席していた薫は会場で123便墜落の一報を聞き、弟の武と共に現場へと向かった。"検視の手が足りないため手伝ってほしい"と依頼された2人は、遺族でありながらも懸命に遺体の身元確認にあたることに。子どものものと思われる犠牲者の足のみの遺体を目撃し、事故の凄惨さや、父は生きてはいないだろうという予感を感じる薫。スローモーションで描かれるこのシーンで、伊勢谷は表情だけで、目の前の過酷な状況に打ちひしがれている一方、歯科医の自分ができる全力を振り絞って犠牲者に向き合おうという薫の決意を見事に表現した。
後編では、灼熱の遺体安置所でたたずむ少年時代の弘樹(濱田龍臣)を元気づけようと薫がレモンを渡すなど、彼らの束の間の交流を挟み、薫と光太郎は父の死という現実を実感していく。中でも、薫が贈った靴のみを父の遺品として持ち帰った峰岸一家を街の人々が出迎え、歯科医としての父に感謝の意を示してくれる人たちを目の前にした薫が、「親父はこんなにも皆さんに愛されていたんだ」と感涙にむせび泣くシーンでの伊勢谷のエモーショナルな演技は、観る者すべての胸を打つはずだ。
そして、母と妹を失った光太郎は、母方の祖父母と暮らすことに。多忙な父とは週末にしか会うことができなくなったものの、その分、絆は強くなっていった。いくつもの季節を重ね、大学生となった光太郎を演じる松坂は、「いつも笑っているね」「悩みとかないの?」とグルメサークルの仲間に言われるほど、人当たりのいい青年に成長した光太郎を、柔らかい微笑みで作り上げる。
また、母が精神的に不安定になり、一度は崩壊寸前だったものの、困難を乗り越えて再び笑顔を取り戻した上杉家。23歳になった弘樹は、ある日、19歳になる弟の伸二に結婚を考えている相手がいることを聞かされる。しかし、それを聞いた弘樹は、墜落する飛行機内で「子どもを頼む」と妻へのメッセージを書き残した父のように立派な父親に自分はなれないという思いを母と弟に吐露するのだった。その時に弘樹が言う「パパはずるいよ」というセリフには、弘樹が若くして亡くなった父へ抱く思慕や、家族を置いていったことへの怒りや悲しみといったさまざまな思いが込められている。悲しげでありながらも、父への愛を滲ませた玉山のセリフ回しにぜひ注目してほしい。
息子たちを思い出の中で導く父を演じた國村、萩原、緒形らの名演も見逃せない、家族愛の物語。父親を失った絶望と闘い続けた少年たちが、27年の時を経て自分が父親になった時に気付く「生きてきた証」と「父と子の絆」を描く、感動のヒューマンドラマだ。
文=中村実香
放送情報【スカパー!】
ドラマWスペシャル 尾根のかなたに~父と息子の日航機墜落事故~ [前・後編]
放送日時:2025年8月12日(火)15:30~、8月23日(土)7:15~
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
詳しくは
こちら