松たか子の第二楽章はここから始まった!坂元裕二脚本、満島ひかり高橋一生松田龍平共演「カルテット」で見せたミステリアスな魅力

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全員30歳以上。大人だけれど大人げないところも多々あり、同居初日の夕食でも、さっそく口論になる。「唐揚げにレモンする(かける)ってことはね、不可逆なんだよ。二度と元には戻れないの」と主張する家森、「レモンぐらいで怒らなくていいじゃないか」とその偏屈さに反発するすずめ。それぞれ個性でクセのある4人が、おかしな不協和音を奏で、笑わせてくれる。

真紀は既婚者で、彼女に惹かれている別府も遠慮がちだったが、やがて夫(宮藤官九郎)は失踪中だと告白。数年前に真紀は結婚してバイオリン奏者をやめ、実はそれを望んではいなかった夫との間に心の距離ができていた。しかし、真紀には真紀の事情があったのだと後に判明。終盤にも、あっと驚くどんでん返しがある。そこでカルテットのメンバーに「私を信じてほしい!」と訴える松の演技が圧巻だ。

このドラマは松たか子のちょっとダークでミステリアスな面を見せるために企画されたという。真紀は美しく、男から見ても女から見ても魅力的な人。声が異様に小さいけれど3人と話すのも楽しそうで、カルテットの絆も深まっていくが、もしかすると、真紀は夫を殺したのかもしれない...というような疑念も抱かされる。

松はそんな真紀を変に作り込まず、自然体で演じているように見える。だが、坂元裕二の脚本はかなり演劇的で、リアルなら絶対にありえないような会話や行動も実写で演じなければいけない。それを自然に見せられたのは、舞台で力を培ってきた彼女ならでは。実は松のCDデビュー曲「明日、春になれば」(1997年)は坂元が詞を手がけているのだが、坂元のドラマに主演するのはこれが初めてだった。

バスローブ姿で男性陣の前に現われて前を開いてみせるが、"実は中にしっかり着ていました"とふざけるような場面でも嫌味がない。そんなコミカルな面は、20代の頃も「お見合い結婚」「いつもふたりで」などで見せていたのだが、40歳を前にしたこのタイミングで、"才能があって美人だけれど、ちょっとドジで男運が悪い"という当たり役に出会えたようだ。そして、この路線は、同じ坂元脚本の「大豆田とわ子と三人の元夫」や、野木亜紀子脚本の「スロウトレイン」などでも引き続き、演じることになる。「夫を殺したのかもしれない」と疑われる悪女的なイメージは、婚約者を殺した容疑がかかる「しあわせな結婚」にもリンクしている。

「カルテット」は、そんな松と同じく舞台での経験が豊富で、坂元の脚本を完璧にこなしてみせた高橋が"笑わせ担当"として好演。坂元脚本には何度も出演してきた満島は、松の主演映画「四月物語」を100回見たほどのファンだったそうだが、真紀を慕うけなげな"すずめ"にシンクロしたのでは?といえるほどリアルに演じている。そして、いつものトーンでとぼけた味わいを見せる松田と、カルテットの4人のバランスが絶妙だ。

他にも、いつも「絶対に目が笑っていない」けれど最後には「人生チョロかった、アハハ」と勝者の高笑いをする有朱役の吉岡里帆など、脇を固めるのも演技巧者ばかり。4人が歌うおしゃれな主題歌のエンディングまで含め、すべてが上質のドラマにどっぷり浸かりたい。

文=小田慶子

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放送情報【スカパー!】

カルテット
放送日時:2025年8月11日(月)12:00~[全話一挙放送]
チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

詳しくは
こちら

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