中山優馬が再び挑む『大誘拐』で感じた"役者としての成長"「毎回の舞台にのめり込めるようになった」
俳優

――今回は4人芝居という少人数編成です。やっぱり独特の緊張感がありますか?
「ありますね。4人しかいないから、誰かが崩れると全体が崩れる。その綱渡り感が面白いです。大先輩3人の中に自分も重要なピースとしていることが嬉しい。たすき一つで役が変わるようなシンプルな演出も、ベテランの力量で成立してしまう。人間の力で芝居が成立している感覚があります」
――初演時に、ドタバタ劇ならではの「大変だった」と感じたエピソードや印象的な出来事はありますか?
「風間さんは本当に大変そうでしたね。袖に引っ込んで着替えて、また出てくるまでの時間が本当にギリギリだったりして。僕の子分役も風間さんがやってくださっているんですが、子分は二人いるので、僕が『はい、何?』と声をかけたら、風間さんが別の役からバーッと走ってきて、『はいはい』と応える、という(笑)。普通逆じゃない?っていう構図なんですけど、それも演劇の楽しさだと思います。ドタバタ劇は一人二役なんて当たり前なので、テンポよく進められないといけないんですが、それを楽しめるのも風間さんの力だと思います。
――ハプニングはありましたか?
「ハプニングといえば、椅子ですね。この椅子は車にもなったり、テーブルになったりと抽象的な使い方をするんですが、そのプリセットが最初から違っていたことがあって。僕が椅子を持ってバーッと登場する場面があるんですが、1回、その椅子が置いてなくて、『あれ、椅子がない』となって。そのまま出て行って、舞台上にあった別の椅子を使って、いつもとはちょっと違うドタバタ感になったこともありました(笑)。そういうハプニングも含めて楽しかったですね」

――舞台の魅力って、そういう生の出来事も含めて観客と共有できるところにありますよね
「そう思います。やっぱり"助け合い"という精神がないとできないと思うんです。そのチーム感ですね。舞台はノンストップで止まれないので、失敗した部分はすぐに捨てていく作業になります。セリフを噛んだら捨てる、動きを間違えたらそれも捨てる。次の二次災害は起こさないようにする。自分が何か"事故"を起こしても、その場に残るわけですが、次に出てくる誰かが必ず助けてくれるんですよ。そういう綱渡り感が舞台の楽しさですし、感情が切れることなく最後まで走りきれるのかなと。なので、その一瞬一瞬に集中していると、終わった後に『今日はこういう感情でフィニッシュしたな』と感じられるんです。日ごとに違う感覚になるのも、その回だけの作品だと思える理由ですね」
――そうした舞台経験は、映像やほかの仕事にも影響しますか?
「良いことも悪いこともあります。悪い面は、映像向きじゃない芝居になってしまうこと。久々に映像の現場に行くと、『あれ?みんなもっと小さい芝居なんだ』と気づくことがあって。自分のサイズが大きすぎることに、無意識のうちになってしまっているんです。良い面は、自力がつくこと。舞台はずっとフルショットで戦っているので、体の使い方や集中力が鍛えられます。映像の場合、顔が撮られているときは顔だけに集中してもいいですが、舞台は全身と神経を常に使わないといけない。そういう意味では役に立っていると思いますね」
――昨年に続き、今年も長丁場のスケジュールで駆け抜けていくと思います。そういった期間は、やはり体調管理も意識されるのでしょうか?
「基本は"よく食べて、よく寝る"ことですね(笑)。細かいことを言えば、ホテルでは必ず加湿をしますし、声のウォームアップと体のウォームアップは欠かしません。でも、やっぱり一番強いのは、しっかり食べて、しっかり寝ることだと思います」

――スケジュール的にも身体的な負担があると思いますが、精神的に大変な部分もありますか?
「今回の作品では少ないほうだと思いますけど、それでも移動は想像以上に疲れます。新幹線で行ける場所ならまだいいですが、そうでない場合は乗り継ぎやバス移動もあったりしますし、初めてのホテルのベッドで寝て、翌日に本番を迎える緊張感も加わる。それと戦っていくのは、なかなか体力のいることです。だからこそ、本当に白石さんは"化け物"だなと思います。全国を回れる体力と、それをやり遂げようとする気力や気迫は、とてつもないです。うちの祖母は白石さんより年下ですが、僕の舞台を観に来るのも"体力がないから"と断念するくらいで。2時間座っているだけでも腰が大変になるのが普通だと思うんですけど、それを演じる側としてこなしているんですから、考えられないです」
――中山さんご自身も、これまで連日の舞台出演を経験されてきました。最初の頃と比べて、体力や精神面で鍛えられたと感じることはありますか?
「ありますね。芝居にのめり込んで楽しくなればなるほど、知識も増えますが、それに比例して苦労も増えてきて。昔は知識がなかったので、人に言われたことをただやるだけで、同じことを20回、30回繰り返す"再現性"を持つことが最初の段階でした。その頃は正直、舞台を面白いとはあまり思えなかったですね。でも、飽きていても飽きていなくても、稽古してきたことだから言い方を変えない、という感覚でやっていました。でも役者の仕事ってそういうことじゃないな、と経験の中で気づきました。本当に感情を込めて、いろんな作業を通してその感情を高い水準で守り続けることが"再現度"なんだ、と。"覚えたセリフをただ言う"ということじゃないんだと気づいてからは、1回1回にのめり込めるようになりました。その意味で、舞台を生き抜く体力は確実についてきたと思います」
――最後に、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします
「僕自身、みなさん以上に楽しみにしています(笑)。この4人のパワーを間近で感じて、"生きているってこんなにきらめくんだ"と思える舞台。ジェットコースターのようなスピード感で、お客さんと一緒に空気を作る一体感があります。年齢を問わず、誰もが楽しめる作品なので、ぜひ劇場で体感してほしいです」
取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
衣装=ジャケット(¥143,000)、パンツ(¥63,800)ともにNEW ORDER(SianPR)
靴(¥29,700)/Dr.Martens (Dr.Martens AirWair Japan)
その他スタイリスト私物 ※すべて税込価格
公演情報
『大誘拐』~四人で大スペクタクル~
原作:『大誘拐』天藤真(創元推理文庫刊)
上演台本・演出:笹部博司
ステージング:小野寺修二
出演:中山優馬、柴田理恵、風間杜夫、白石加代子
<東京公演>
日時:2025年10月10日(金)~10月13日(月・祝)
場所:シアター1010
他、香川、鳥取、岡山、山形、帯広、札幌、大阪、愛知、石川、秋田、新潟、長野、神奈川公演あり
衣装お問い合わせ番号
・Sian PR(03-6662-5525)
・Dr.Martens AirWair Japan(0120-66-1460)
詳しくは
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